ワクチン――安心の接種ポイント

2025年0107 福祉新聞編集部

保育や子育ての現場で役立つ健康・発達の情報を、小児科医の視点から紹介する「子供の心と体~健康と発達のヒント」を始めます。2020年12月から22年7月まで連載した「乳幼児の保健」の続編です。日常的に直面しやすい健康課題や発達の悩みに対し、予防やケアの具体的なポイントを分かりやすくお伝えします。

こどもたちが健やかに成長するためには、感染症の予防が欠かせません。その中でも、「ワクチン」は命を守るための最も効果的な手段の一つです。天然痘の根絶や、ポリオや麻疹(はしか)の劇的な減少がその代表例です。ワクチンは、こどもを病気から守る「盾」であり、社会全体の健康を守る「防波堤」としても重要な役割を果たしています。

私の娘も1歳のときにポリオの生ワクチンを接種後、まれな副反応であるポリオ様麻痺を発症しました。幸いにも後遺症なく回復しましたが、この経験を経ても、私は娘に新型コロナウイルスワクチンを含め、接種可能なすべてのワクチンを接種させました。それは、ワクチンがこどもを病気から守り、将来の健康を支える最善の手段であると確信しているからです。現在使用されるポリオワクチンは不活化ワクチンであり、こうした副反応はほとんど起きません。ワクチンは安全性と効果を高めながら進歩し続けています。

ワクチンは、弱毒化または不活化した病原体を接種し、免疫を作る医療技術です。「免疫記憶」によって、接種を受けたこどもの体は将来の感染に迅速に対応できるよう備わります。また、多くの人がワクチンを接種することで感染が広がりにくくなり、赤ちゃんや免疫が弱い人たちを間接的に守る「集団免疫」も形成されます。新型コロナワクチンをこどもたちに接種する際に、「こどもが感染しても重症化することは少ないのに接種が必要か」との議論もありましたが、その際にも集団免疫の効果も考慮されていたと聞いております。そして、新型コロナワクチンによって、集団免疫の効果があるかどうかは未だ解明されていません。

一方、ワクチンに対して不安を抱く親御さんも少なくありません。「副反応が心配」「本当に必要なのか」といった声も耳にします。確かに接種後に軽い発熱や腫れが生じることがありますが、これは免疫が働いている証拠で、通常は一時的なものです。ただし、まれに起こるアナフィラキシーなどに備え、接種後30分程度の観察が推奨されています。

日本では予防接種法に基づき、定期接種スケジュールが定められています。このスケジュールに従うことで、こどもが最適なタイミングで免疫を獲得できます。母子健康手帳や自治体からの案内を活用してスケジュールを守りましょう。接種後の体調観察も大切で、異常があれば早めに医療機関に相談してください。

私自身、娘の経験を通じてワクチンにはリスクがあることを再認識しましたが、それ以上に得られる恩恵が大きいと感じています。科学的根拠に基づき、冷静に判断することが大切です。ワクチンは、こどもの未来への投資です。感染症の予防によって安心して過ごせる毎日をつくり、こどもたちが夢に向かって成長できる環境を整えていきましょう。


そごう・つよし 社会福祉法人恩賜財団済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科部長。防衛医科大卒。同大小児科専門研修医や済生会横浜市東部病院こどもセンター医長などを歴任。日本小児科学会認定小児科専門医・指導医、日本肝臓学会認定肝臓専門医・指導医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

著書に「目からうろこ子育ての落とし穴」(福祉新聞社)、「子供の便秘はこう診る!親子のやる気を引き出す小児消化器医のアプローチ」(南山堂)などがある。