「気になる子」と向き合う 療育と保育を実践する福祉法人(大阪)
2024年05月28日 福祉新聞編集部幼保連携の先駆法人とも言われる大阪市の社会福祉法人都島友の会(渡久地歌子理事長)が、「療育と保育」の新たな実践を進めている。療育施設と認定こども園を隣り合わせに造り、ドア一つ開けて連携できる体制を整えて5年。その実践研究は今春、日本保育協会の優秀賞にも輝いた。発達障害のこどもたちが増える中、保育現場に療育機能を求める声は強い。都島友の会の実践は、少子化での経営の新基軸として論じられる「保育の多角化」にも一石を投じそうだ。
ドア一つで行き来できるのは、同市都島区の「幼保連携型認定こども園ひがみや児童センター」(瓜うり坂容子園長、定員210人)と「児童発達支援センター・こども発達サポートステーションそれいゆ」(櫻井雅子施設長、定員30人)。
交流深める構造に
都島友の会は2016年4月、大阪市からの委託で1976年から運営していた「都島東保育園」と隣接の知的障害児通所施設「都島こども園」を買い取り、現在の名称に変更。新園舎をドッキングして建て替えた上、2020年4月から新体制で運営を始めた。
「もともと隣接していたので、職員や園児同士の交流は長年やってきたが、建て替えを機に、その利点をもっと生かそうと工夫して今の構造になった」と常務理事で事務局長の寄瀬博光さん。
「『隣に療育施設があります』と話すと、不安を抱えた保護者も『それなら』と、気軽に相談して利用してくれる。『同じ都島友の会の施設だから行きやすい』。そんな声をもらっている」
鍵は保護者の理解
「ひがみや」と「それいゆ」の連携事例を見る。
ある日の夕方。瓜坂園長は、路上で園児の行動に困っている母親を見掛けた。
「一度お話をと声を掛けた」(瓜坂園長)。
数日後に、担任と共に母親と面談。すぐに櫻井施設長に相談し、クリニックへの受診を勧めた。園児は発達障害と診断されて「ひがみや」と「それいゆ」に併行通園した。
実は、「それいゆ」のスタッフに時折、「ドアのこちら」に来てもらい、見守りをお願いしている園児だった。
「気になる子であっても、確信がないと保護者には伝えられない。だから療育の専門家の力が要る」と瓜坂園長。
櫻井施設長は「早期発見、早期療育が大切。きちんと現実と向き合えれば、自信を持って前に進んでいける」。
それには保育現場での気付きと、保護者の理解が不可欠だ。
自宅と違って、園はこどもたちの集団生活。特性が見えやすくなる。そこに保育士は気付かなくてはならない。
かわいい乳児期が終わって、突然、わが子の特性(障害)を認めることへの戸惑いは大きい。親の理解を得るための鍵は、療育とこどもの特性について正しい情報、知識、認識を伝えることだ。
それいゆでの療育
併行通園はどんなカリキュラムなのか。
朝、「ひがみや」に通園。午後3時から4時まで「それいゆ」。そして「ひがみや」に戻って、帰宅する。
「大きな集団だと周囲の情報が錯綜さくそうして、理解しにくくなり、ほかの園児の後をついて動くだけになる。『それいゆ』は4、5人の小グループ療育。例えば、絵や写真を使ってコミュニケーションを図る。自分で予測を立てて動き出せるようになり、自己肯定感が育っていく」(櫻井施設長)。
会話やゲームの順番など暗黙のルールを、絵やカード、写真などを使って見える化している。
「それいゆでの様子を見に来たお母さんに、『座っているんですね。座って話を聞いているんですね』とびっくりされたこともあった」(櫻井施設長)。
こども同士の交流
コロナ禍前には「それいゆ」の園児が、「ひがみや」のお楽しみ会に参加していた。音楽会なども一緒に楽しんだ。
園庭では三輪車に乗った「それいゆ」の園児を、「ひがみや」の園児が押していた。
「コロナも5類になり、これからまた園児同士の交流も図っていきたい」と寄瀬さん。
瓜坂園長と櫻井施設長は言った。
「地下鉄の中で声を上げながら歩いているお兄さんがいる。いて当たり前。授業中に声を上げる児童がいたら、その子を30人の集団に合わせるんじゃなくて、その子に落ち着く場所を用意してあげる。いろんな人がいて社会が成立する……ということを、当たり前に思ってもらえる社会になってほしい」
社会福祉法人都島友の会 1931年創設。大阪市に八つの幼保連携型認定こども園と保育所、沖縄に二つの保育所がある。児童発達支援センター、放課後児童クラブ(児童館)、特別養護老人ホーム、デイサービス、訪問介護事業なども展開。大阪本部は同市都島区に、沖縄本部は那覇市首里金城町にある。ひがみや児童センターは、0歳から5歳児が対象。職員39人。2023年度で療育手帳を持っている園児は6人。それいゆは、公認心理師や看護師、保育士ら職員16人。2歳から就学前の児童が対象。現在、「ひがみや」と「それいゆ」の併行通園は5人。