テクノロジー導入で介護現場に大きな波 質の2極化懸念も
2025年02月12日 福祉新聞編集部
ロボットやICT(情報通信技術)などテクノロジーの介護施設への導入は、国を挙げた取り組みだ。2023年時点で29%の導入割合を29年には90%にするという目標を掲げ、補助も拡充している。こうした大きな波は、介護の在り方を大きく変える可能性がある。
急減する働き手
「今後数年でテクノロジーが急速に介護現場に広がり、仕事の形が大幅に変わる可能性がある」――。こう話すのは日本福祉大の後藤芳一客員教授。かつて経済産業省で初代の医療・福祉機器産業室長を務めるなど、福祉分野へのテクノロジー導入を主導してきた第一人者だ。
背景の一つは働く人の急減だ。24年の生産年齢人口は7457万人。50年には5275万人と3割も減ると見込まれている。
一方、高齢者は増え続け、介護職員は26年度に25万人、40年度に57万人が新たに必要だ。
にもかかわらず23年10月時点の介護職員は約212万6000人で前年より約3万人減った。介護保険創設以降、増加が続いた介護職員数が初めて前年比減となるなど新たな局面を迎えている。
こうした中、厚生労働省は介護現場にテクノロジーを導入することで効率化し、働きやすい職場づくりを進める方針だ。
具体的にテクノロジーを導入する介護施設の割合は、26年に50%、29年に90%を目標に掲げる。
そのため、24年度から従来事業を「介護テクノロジー導入支援事業」に統合して大幅に後押しする。移乗や入浴支援は最大100万円、見守り支援は最大30万円、ICTは最大260万円を補助。さらに導入を促すため、介護報酬に「生産性向上推進体制加算」も新設した。
ただ、厚労省介護業務効率化・生産性向上推進室は「テクノロジー導入は一つのツールにすぎない」とくぎを刺す。「現場でのデジタル人材の育成や、業務の役割分担を進めることで、業務負担の軽減や離職率を低下することが最終目標だ」としている。
事故減少にも期待
一方で、テクノロジーの導入により介護現場での事故が減る可能性があると注目している業界もある。
福祉施設向けの保険を提供する損害保険ジャパンは、22年4~6月の3カ月に、民間の高齢者施設約400カ所で起きた事故の状況をまとめた。
それによると3カ月で起きた転倒や転落は約1万件。時間ごとの内訳は午前7時台と午後2時台が550件以上と高かった。しかし、就寝時間帯である午後9時~午前6時でも3388件と3分の1を占めていた。
同社医療・福祉開発部第2課の城戸正弘課長は「就寝時間帯でも多くの事故が起きているのには驚く。今後テクノロジーの導入が、どう影響するかを大変注目している」と話す。
データ重視の介護
後藤教授は介護施設に対して「これからはさまざまなテクノロジーを自法人の経営にどう適用できるかが重要だ」と指摘。「導入するだけでなく、集めたデータの分析までできるかどうかで、支援の質が2極化するのでは」と警鐘を鳴らす。
一方で「開発企業も正念場だ」と指摘する。「技術力だけでなく、業務負担が減り時間効率も上がるといった〝使える製品〟でなければ現場は評価しないだろう。利用者と職員、経営者への三方よしが成立するかどうかが鍵になる」と話す。