高齢者や障害者が海藻集めて養豚 6次産業「鎌倉海藻ポーク」(神奈川)

2024年0521 福祉新聞編集部
鎌倉海藻ポーク作りのため作業をする「きしろホーム」の利用者たち

観光地として人気の神奈川県鎌倉市にある社会福祉法人きしろ社会事業会(田尻充理事長)は、今年度から法人内に「地域共生部」を発足させた。以前から地域貢献事業は実施しているが、これまでの事業の拡充や、より多世代を意識した新たな事業を展開するために、部長と職員各1人による専従職員を置いた。加えて中心的な役割の一つである地域包括支援センター(2カ所)の職員9人を含めた体制で地域共生の社会づくりに取り組んでいる。

同法人には軽費老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、地域包括支援センターなど6カ所に7施設がある。JRなどの鉄道駅から不便な地域にある施設には法人の車両を活用し利用者や職員を送迎しているが、朝晩の1日14便については希望する市民の同乗を認める地域貢献事業を行っている。1カ月で約600人が通勤・通学に利用している。市民は無料。

さらにユニークな事業は、海岸に打ち上げられる海藻を豚の飼料として有効利用し、「鎌倉海藻ポーク」として商品化する事業への参加だ。

同市には由比ケ浜や材木座などの海岸があり、海がしけた翌日には、大量のカジメ、ワカメなど海藻が打ち上げられる。暑い日には、打ち捨てられた海藻が腐敗し、悪臭を放つため厄介なごみとして処分されたこともある。「海藻を餌にした豚はきっとおいしいし、商品化できるのでは」と考えたのが、市内で料理教室を主宰する矢野ふき子さん。

2019年ごろ、海藻に漁業権を持つ湘南漁業協同組合鎌倉支所(当時は鎌倉漁協)の漁業者に有効利用の了解を得た上で、養豚への利用を厚木市の養豚業者に相談、賛同が得られた。海藻を拾って砂、塩抜きの洗浄をし、乾燥して粉砕する仕事には人手がかかるが、障害者施設にとっては工賃が期待できるので歓迎と分かった。障害者らが海藻を拾う作業には漁協鎌倉支所が「漂着海藻回収許可証」を発行してくれることになった。

そして、養豚業者の元で試験的に出荷前2カ月間、矢野さん手づくりの海藻飼料を食べさせ神奈川県畜産技術センターでの肉質調査をしたところ、海藻を食べた豚は、海藻なしの豚に比べうまみ成分が多く、まろやかな味わいと分かった。20年2月には農林水産省の6次産業化の認定を受け、「鎌倉海藻ポーク」の誕生となった。

漁協、福祉、養豚など多職種の協働や地域の福祉施設、市民ボランティアなどとの連携にもなる事業は魅力的で、21年ごろからは同法人の軽費老人ホームの利用者も作業に参加。これまで約20回海藻の回収作業に当たり、洗浄、乾燥などを行った。海藻ポークはハンバーグステーキとなってホームの食卓に上り喜ばれた。

鎌倉海藻ポーク事業は、矢野さんが工賃(100グラム100円)を払い、養豚業者にも同額で納入するボランティア。現在は市内6カ所の福祉作業所も回収に参加するようになり、販売先も広がり、市内のホテルやレストランでも利用が増え、市内の小・中学校で給食に出されるようになっている。

海藻ポーク事業以外では、市との協働で毎週火曜の午後、事務所の一角で引きこもりの人たちのために相談室を開設している。お茶に訪れてもいいし、相談に来てもいい、自由で安心できる居場所を提供している。

また、市内に20年4月にコミュニティー型難民シェルターが開設された。これを契機として、同法人は社会で自立して生活するための後押しなどをしており、より一層支援の充実を図るために市社会福祉協議会などと検討を進めている。

地域共生部を立ち上げたきしろ社会事業会の田尻理事長は「社会福祉法の改正で、福祉法人の地域貢献事業は責務となった。これまでも実施してきたが、さらに支援活動を充実させるために専従職員を入れた組織を作った。公益的な活動を通じて地域の信頼を築く中で、法人の先を見通したい」と語る。