逆境から生まれる新しい福祉〈コラム一草一味〉

2025年0705 福祉新聞編集部

雄谷良成 社会福祉法人佛子園 理事長

能登半島地震で被災した高齢者施設から「みなし福祉避難所」と認定された施設に広域避難した2131人のうち、255人が入居先で亡くなったことが、石川県のまとめで分かった。死因や災害関連死に該当するかどうかは公表されていないが、度重なる環境の変化や見守り体制の不備、遠方による人間関係の断絶が影響していることは明らかで、今後の検証が求められている。

WHO(世界保健機関)は健康を「身体的・精神的・社会的に良好な状態」と定義する。福祉現場ではこれまで、身体的・精神的な個別支援に力を注いできた。医療的ケアや介護、心理的支援は命と尊厳を守る営みである。しかしその一方で、「社会的健康」――すなわち人と人との関係性については、十分に担保されてきたとは言い難い。

とりわけ入所型の施設では、暮らしが内部で完結し、利用者同士の関係も限定的である。職員との関係は交代制勤務により断続的、家族との面会も減少し、社会との接点は希薄化している。施設の暮らしは、一般社会の多様で重層的な関係性とは、質・量ともに大きく異なる。こうした〝関係性の貧困〟が、災害時の孤立と関連死の要因となることが、今回の地震で改めて突きつけられる形となった。

福祉専門職による対人支援は基盤である。その上で、多様な人と関わる「関係性の構築」こそが、これからの福祉の柱となる。災害時の死因が「物理的被害」から「社会的孤立」へと移るなか、関係性こそが最大の防災資源であり、「避難所はシェルターではなく、暮らしの延長である」ことを示している。

そして今、制度の在り方も問われている。社会福祉法は地域との協力や共生を掲げてはいるが、日常的な関係性が命を守るという実践的視点や、平時と災害時を分けないフェーズフリーな福祉の理念までは十分に反映されていない。

この〝制度の隙間〟にこそ、福祉の未来が芽吹いている。そこでは制度に頼らず、人と人とがつながり、暮らしの中で支え合う実践が静かに始まっている。