組織はシステム的に間違える〈コラム一草一味〉

2025年0713 福祉新聞編集部

後藤芳一 日本福祉大学 客員教授

「打ち合わせテーブルにあった『車いすのリカちゃん人形』を懐かしく……」。Sさんから先日、退任のあいさつが届いた。最初に出会った1990年代末、筆者は通商産業省にできたばかりの医療・福祉機器産業室で勤務していた。Sさんは後に、福祉の組織の幹部役員になった。

3月締めの団体や企業は、6月の総会で役員が代わり、活動が本格化する。数ある組織幹部の役目のうち、必須なのは、構造や仕組みのレベルで組織や業務を変えること。運営や現場の工夫で凌しのぐのと対極だ。

利用者の要望、時にトラブル……、成長のヒントは現場にあるという。まさにそうだ。それを取り込めるかが組織の盛衰を決める。よって当然に最重視するはずのこと。

だが現実は違う。筆者は非常勤の委員や教員としてよく事業に関わる。「現場」側である。課題に対処するなかで気付きもある。

「仕組みをこう変えれば、事業の魅力を増す機会になる」と担当者に提言する。しかし、これが通らない。「中で相談したが、規則通りに」と戻ってくる。

組織側にも事情がある。(1)規則を疑わず、それを守るのが仕事と誤解(真面目な人ほど危ない)(2)要員不足で下ほど忙しい。凌ぐだけで手いっぱい(3)上下の階級意識。組織内も現場寄りは立場の弱い非常勤や任期付きで、個々の「わがまま」を抑えるのが担当の仕事(4)失敗に不寛容。上に伝えると自分まで負の評価(5)「現場が大事」「何でも言って」と言うだけのトップ。組織は間違える仕組みを内に持つ。先の大戦もそうだった。自然に進めて自動的に間違える。システムの誤りだ。

この国は現場力が支えてきた。今もそうか。現場はフルの力を出せているか、情報は目詰まりしていないか。介護の非常勤職員、看護部の看護補助者など、現場の声が仕組みに反映されているか。

当方にはSさんがいた。残る宿題は、個人の力量を超えて正規の仕組みにすること。これはトップの仕事だ。Sさんは別の分野に移る。また新しい実践でシグナルを出しそうだ。

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