共生社会の確立〈コラム一草一味〉

2025年0802 福祉新聞編集部

炭谷茂 恩賜財団済生会 理事長

先の参議院選挙戦の争点は、物価高騰対策、社会保険料負担問題、米国の関税政策への対応などたくさんあったが、選挙戦の途中から外国人対策が浮上した。

訪日外国人が増加するにつれ、外国人の違法行為やマナーの悪さに接した国民は、排外主義的な主張に共感を示し始めた。欧米に拡大する排外主義と通底する不気味な動きである。

各党が掲げた外国人対策に関する公約を拾ってみると、外国人の受け入れ総量規制、違法外国人ゼロの取り組み、外国人の生活保護支給停止、外国人の社会保険運用の適正化など規制強化が目立った。他方では多文化共生社会基本法の制定、差別や人権侵害に対処する人権機関創設など外国人受け入れ体制を整備する公約もあった。

外国人対策の論戦は、選挙後も続けられるだろう。排外主義的な主張が激しくなるのではと心配される。一方で福祉や医療の現場では、外国人労働者が不可欠になったので、外国人問題に無関心では済まされない。

マンパワー不足は、済生会でも最大の経営問題である。看護師、看護補助者、介護職員など、どの職種も人手が不足しており、患者や利用者の受け入れ制限を余儀なくされている。

そこで6月4日、総合的な人材確保対策を策定し、人材確保に乗り出した。対策の中心は、女性、高齢者、障害者、外国人ら、どんな人にとっても「働きやすく、働きがいを感じる職場」を目指すことだ。

特に外国人の活用は、これまでの方針を転換した。人権問題が発生し、国内外から批判があった技能実習生については、雇用しない方針を取ってきた。しかし、前国会で法改正が行われ、人権に配慮した育成就労制度に移行されることを考慮し、外国人の活用を積極的に取り組むことにした。

もはや外国人の存在なくしては日本の将来はない。日本の法律、ルール、マナーの順守を外国人に求めることは大前提だが、互いの立場を尊重して共生する社会を確立することが急務になっている。

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