精神医療国賠訴訟、2審も原告が敗訴 東京高裁「国に作為義務なし」
2025年07月23日 福祉新聞編集部
精神科病院への入院期間が38年に及び、地域で生きる権利を奪われたのは精神医療の制度改革を怠った国の不作為が原因だとして、統合失調症の伊藤時男さん(74、群馬県)が国家賠償を求めた裁判の控訴審判決で、東京高等裁判所(小出邦夫裁判長)は10日、「国に作為義務はなかった」として控訴を棄却した。
伊藤さんは強制入院の一つ「医療保護入院」によって長期の入院を強いられたと主張したが、判決は病院の診療記録に記載が見当たらないことなどから「これを認めるに足りる証拠がない」と退けた。
判決後、伊藤さんは「納得いかない。上告するかどうかよく考えたい」と述べた。
控訴審は伊藤さんの入院形態が仮に医療保護入院だったとして、その制度を改廃しなかった国会議員の立法不作為、隔離収容政策を解消しなかった厚生大臣(当時)の不作為が主な争点となった。
判決は医療保護入院の目的は正当であり、入院中の処遇なども患者の憲法上の権利を過度に制約しないようさまざまな規定が定められているとみて、「国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃の立法措置を怠っていたと評価することはできない」と断じた。
厚生大臣についても、「控訴人が主張する社会復帰施設や地域医療の充実、長期入院患者に対する積極的調査介入など各種の作為義務を負うことが当然に導かれるような法令の規定は存在しない」とし、国賠法上の違法には当たらないと結論づけた。
提訴は2020年9月30日。訴状などによると、伊藤さんは10代で統合失調症と診断され、1973年9月から福島県内の精神科病院に入院。2011年3月、東日本大震災の影響で転院した。
1審の東京地裁は24年10月1日の判決で「入院が長期化した原因として周期的に繰り返す症状や、家族が退院に消極的だった可能性が考えられる。制度の問題ではない」と棄却した。伊藤さんはこれを不服として控訴していた。