〈福祉新聞フォーラム〉福祉施設の延命と再生 第1部
2025年10月19日 福祉新聞編集部
「第10回福祉新聞フォーラム」(福祉新聞社主催)を8日、東京都江東区のTFTビルで開催した。テーマは「福祉施設の延命と再生の在り方」。新環境設計代表取締役の荻原正之氏と取締役設計部長、山本慎也氏が登壇し、施設のライフサイクルコスト(LCC)や長期修繕計画を踏まえた長寿命化の必要性、老朽化に伴う大規模改修や建て替えの実例を紹介した。
長期修繕計画作成を
LCCは建設費(初期費用)▽運営費(水道光熱・警備・清掃費など)▽維持管理費(定期点検・補修など)▽大規模改修費(外壁・防水など=15~20年周期)▽解体費の総和を指します。
福祉施設の稼働特性を考慮すると、入所系施設は24時間稼働なので劣化が速く、一般建物と比較して維持管理費・大規模修繕費の負担が増えることが考えられます。
次に、長寿命化のための長期修繕計画についてです。建物の劣化防止には、日々のメンテナンス、故障部分の早期発見が重要になりますが、長期視点で管理するには、建物の将来をシミュレーションする長期修繕計画が必要になります。修繕コストや建物の劣化の度合いから、5年ごとに見直し、現状に合わせた計画書に修正していくことが大切です。
新築時、施工業者によっては無償で作成してくれるケースがあります。福祉施設の場合、施設の特殊性を加味して、事業主と相談しながら作っていくのがよいのではないでしょうか。
次は建物の寿命についてです。建物の物理的寿命(使用可能年数)を決めているのは躯体(構造体)です。耐久年数の目安ですが、鉄筋コンクリート造であれば一般的に60~80年とされています。実際の福祉施設の寿命は、家屋の平均寿命調査から推測すると大体50年ぐらいと思われます。
社会的老朽化
福祉施設の解体の決断、つまり、寿命を迎えるのは、社会的ニーズや制度、技術の不適合によって引き起こされる「社会的老朽化」が決め手になるケースが多いと考えられます。
福祉施設も時代のニーズや価値観によって造られますが、私たちが計画するときに重要視するのは、利用者の快適性、職員目線での効率性と利便性、省エネ化、ICT(情報通信技術)化、感染症対策などです。今、老朽化を迎えている建物に欠けている視点ではないでしょうか。これが社会的老朽化です。
物理的、経済的、機能的な老朽化であれば、大規模修繕や改修で防ぐ可能性を持ちますが、社会的老朽化の解決は難しい。そのため、地域の将来の需要やニーズを予測して、既存施設の構造的な劣化の度合いを把握した上で、既存施設の延命策から検討を始めてはいかがでしょうか。
躯体の耐久年数が物理的な寿命で決まっていますから、それを目標使用年数と考えればいいと思います。これが、私たちが考える建物の寿命の結論になります。
改修計画の進め方
次に実際の改修計画の進め方について解説します。初めに現状の建物について把握することから始めます。建築士など専門家による建物自体の現状把握と事業者への使用状況や改善点の有無についてヒアリングし、改修項目をすべてリストアップします。
ポイントは、すべての項目について工事のやり方や概算費用を含めた工事を行う上での条件整理をすることです。各項目の整理後に緊急度、費用対効果、同時に工事を行うことのメリット、補助金対象項目であるかなどを検討し、優先順位をつけて項目を決定します。
工事を行う際は「居ながらの工事」に考慮した安全計画などを施工者と事業者が一体となって検討することが大切です。
今回、対応できなくても、現状の問題点や次に行う改修計画などを把握することも大切なので、専門家を踏まえた検討を密に行い、将来を見通す良い機会になることを願います。
また、工事を進める上で関心が高いのは建設費の高騰ではないでしょうか。資材・労務費の高騰や建設需要の増加など要因は多岐にわたりますが、当面は高値安定が続くと予想されます。地域における施設需要、将来像を踏まえ、改修をベースに現実的な着地点を探ることが妥当と考えられます。