〈論説〉デフリンピック開催 静かな挑戦に熱い支援を
2025年08月23日 福祉新聞編集部
静寂の世界で、より速く、より高く、より強く競う。聴覚障害者の「デフリンピック」が11月15日から日本で初めて開催される。
耳が聞こえない意味の英語「デフ」とオリンピックの合成語で、1924年の第1回パリ大会から100周年になる(原則4年ごと、冬季は49年から)。
70~80カ国・地域から役員らを含め約6000人が参加、21競技が東京都と福島県、静岡県で実施される。ボランティアも3000人超に膨らむ見込みだ。
参加資格は補聴器なしで聴力損失55デシベル超(静かな場で会話が聞こえにくいレベル以上、競技中の補聴器使用は禁止)。
陸上のスタート時には電子音ピストルと連動してランプが発光する。赤は「位置について」、黄は「ヨーイ」、緑は「ドン(号砲)」。柔道の審判は選手の肩をたたいて「始め」、サッカーやバスケットボールではレフェリー全員が旗で多方面から指示・判定を伝える。
選手たちの能力は高い。五輪大会にも出場し、競泳、レスリング、バスケットボールなどでメダル獲得の実績がある。
パラリンピック(60年開始)との合同も検討されたが、独自の歴史や障害特性などで折り合わなかった。
「ろう者の五輪」は、障害への社会的な理解を広げる歩みだった。音声言語と同様に手話も各国で異なるが、例えば手をヒラヒラさせる「拍手」は共通だ。冬季大会のスタッフを務めた女性は、こう振り返る。
「拍手の代わりに頭の上でキラキラ星の歌を歌うときのように両手をクルクルさせる、選手がゴールするたびに、大勢の応援者から一斉にクルクルの拍手が舞う。メダル決定の瞬間、監督・スタッフ・選手がコミュニケーションの壁を越えて、喜びを分かち合うシーンは心に響いた」(小倉和郎、パラリンピック研究会紀要VOL8)。
まだまだ知名度は低く、関心を高めようと、大会運営委員会は、入賞メダルのデザインを全国の小中学生約8万人の投票で決めた。各地で地元選手が学校で手話を教える試みも続く。
都内の関連施設では音声を多言語で示すディスプレーが設置された。東京メトロとヤマハは協力して地下鉄駅で「みえるアナウンス」を始めた。パネルにスマートフォンをかざすか、QRコードを読み取ると構内放送を文字化できる。
一方、超党派の議員連盟が「手話施策推進法」を先の国会で成立させた。要旨は国と自治体の総合的な責務を定め、財政措置を講じること。手話のできる教職員の養成・配置、地域や職場で聴覚障害者への情報提供の拡充などを盛り込む。手話通訳の普及を含め具体的な予算確保が宿題になる。
デフリンピックが次第に熱を帯び始めたのは喜ばしい。
みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職