〈論説〉高額療養費の行方 医療改革でどう守る

2025年1122 福祉新聞編集部

難病や大手術でも自己負担を抑える高額療養費制度について、政府・厚生労働省は大幅な自己負担引き上げ案を示し、難病患者らの猛反発を引き起こした。

石破茂前政権は提案を撤回し、社会保障審議会医療保険部会・専門委員会で再検討中である。いきなり大幅引き上げへ走った反省から患者団体、学識者、医療関係者らの意見を聞いた。

「今の負担区分ですら支払いがやっと、正社員に加え夜中1~4時までバイトに行く」。この20代女性は慢性骨髄性白血病で高価な分子標的薬が欠かせない。患者団体「いずみの会」の調査で、経済的に服薬をためらう人や医師に相談なく「休薬」の人も目立つ。

患者・家族は「静かな自殺」と呼ぶ。

アトピー性皮膚炎には生物学的製剤などの新薬が出た。「大切な薬を諦めたくない。人生を諦めたくない」(日本アレルギー友の会)。

そんな悲痛な訴えが繰り返された。開催5回で意見は集約され「高額療養費制度は、セーフティーネット機能として患者にとってなくてはならない」と、今後も堅持で認識は一致した。

高額療養費は支給7102万件、3兆円弱で医療費総額の7%弱を占める(2022年度)。当初案の自己負担増で5300億円抑制の粗い試算だが、財政対策は「保険制度改革全体の中で議論」と整理された。

学識者から提案もあった。臨床研究で改善効果が少ない、ほとんどない「低価値医療」を止めること。康永秀生東京大教授は、(ウイルス性が大半の)風邪に抗生剤投与▽定期的な骨密度検査▽頭痛への脳波検査▽腰痛や首の痛みに対する牽けん引療法などを列挙し、少なくとも年1000億円以上を見直せる研究を示した。

市販薬(OTC)と効能が似ているが、処方箋が必要なOTC類似薬も焦点だ。診察を受け処方箋を得ると市販薬より安い(自己負担1~3割、こどもは実質無料)。保湿剤、湿布、便秘、胃炎、頭痛、花粉症など多種多様で約7000品目に上る。

全品目を薬剤師の販売に任せ1兆円の削減可能との主張さえある。だが、「保険外し」は受診控えを招き、重篤疾患の兆候を示す発熱や疼痛の症状を見逃す、薬剤の副作用を引き起こすなどの恐れがある。無駄が指摘される代表的な保湿剤や湿布も皮膚病の防止などで治療に不可欠な症例もある。

一律「保険外し」は、慢性病、難病の患者、低所得者、小児らの負担を急増させる。良識的な研究者の推計3000億円規模の抑制が理論的な上限ではないか。

政府の結論は予定の秋にはまとまらなかった。

高市早苗首相は、自民党総裁選時、高額療養費の自己負担引き上げに唯一「反対」と明言した(10月3日共同通信)。その姿勢を貫き、皆保険の生命線を守るため衆知を集めてほしい。

みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職

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