〈論説〉生活保護・介護・医療 すべて現場から始まる
2025年12月20日 福祉新聞編集部
生活保護費の大幅引き下げをめぐる紛争は長期化した。2013~15年の最大10%引き下げに訴訟は多発し、最高裁で争った。
6月の判決は、厚生労働省独自の「デフレ調整」(マイナス4・78%、減額見込み580億円)を違法と断じた。消費実態を把握しないまま、専門部会にも諮らず減額したなどの理由だ。ただし、一般の低所得者との均衡を図る「ゆがみ調整」(同90億円)は認めた。
厚労省は11月、対応策をまとめた。新たな水準調整(マイナス2・49%)を設け、13年以降のデフレ調整との差額を追加支給する(対象約300万人、単身で10万円)。原告約700人も水準調整の対象だが、国費の特別給付金で穴埋め支給する(単身20万円、ゆがみ調整は実施)。
判決は減額取り消しを命じたのに、再度の減額は訴訟の蒸し返しになる。訴訟負担への配慮もいる。そんな含みの苦肉の策だ。
この対応策で乗り切れるか、政治判断に委ねられた。もちろん原告側は「不利益は全受給者が受け、違法な引き下げ前の基準で全額補償」を迫っている。
一連の重苦しい対立の最中、少し救われる思いになったのは、山梨県の長崎幸太郎知事(57)による独自の実態調査だった。
長崎知事は、被保護世帯を担当するケースワーカーの訴えを聴き、「厳しい状況が正直見えていなかった」(5月8日記者会見)。県所管の町村69世帯で職員の聞き取り調査を試みた。
暮らしが「大変苦しい」「やや苦しい」は計75%、1日1~2食の人は14%、入浴かシャワーは1週間に1回が29%、親族、知人の冠婚葬祭に「まったく出席しない」は各51%、普段連絡を取る「相手がいない」は28%~。国の全国実態調査(22年)と比べ、すべてに相当な悪化であった。
調査69世帯は少ないが、訪問予定の世帯での緊急調査である。ちなみに各市で所管の被保護世帯は5923、県所管の町村で517。
「特に育ち盛りのお子さんがおなかの空くことのないように」「ひとり親世帯、シングルマザー家庭が苦境にある」と知事は語り、夏休みにこども1人31食分を1613人へ無料配布した。
生活保護の財政は国4分の3、地方4分の1負担。長崎知事は財務省出身の自民党員で、「生活扶助費の上乗せは県の財政能力を上回る、全国知事会などを通じて国に求める」と強調した。
訪問介護の報酬が大幅引き下げされた。高額療養費の自己負担上限額の大幅引き上げが提案された。いずれも当事者や関係団体への詳細な聞き取りなしに強行され、事業所の倒産・休業や提案撤回に陥った。
「現場との対話」は、言い分を丸のみする意味ではない。実情を可能な限り見極め、事実に基づいて施策を進める基本の基本ではないか。
みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職

