〈論説〉年金改革の失速 最善策からやり直そう

2025年0524 福祉新聞編集部

年金改定法案はやっと国会へ提出されたが、内容は骨抜き状態になった。

目玉の基礎年金底上げ策は、厚生年金の積立金を一部振り分けることへの反発や、巨額の公費捻出の難しさから見送られた。

もう一つの非正規労働者に対する厚生年金の適用拡大も、中小事業所の保険料負担に配慮し、実施は大幅に遅れる。

国民年金(給付時は基礎年金)は、現行のままでは給付水準が将来3割程度も落ち込む。非正規労働者、非正規期間の長い人々、零細な自営業者らの老後は苦しくなる。とりわけバブル経済崩壊後の「就職氷河期」世代(現在40歳前後~50歳前後)は〝年金氷河期〟に直撃される。

厚生年金加入の正規労働者も、共通の基礎年金部分の落ち込みで氷河期の寒風にさらされる。どう仕切り直すか。

実は、今回の改定素案には、極めて有効な方策があった。国民年金の保険料納付を20~59歳から64歳まで5年間延長する案だ。

国民年金の保険料は月額1万7510円、59歳まで40年納付で65歳から6万9308円を終生受け取れる。5年延長で保険料は計100万円余追加だが、給付は毎年10万円余増える。

長命時代に65歳前後まで働くのは普通になった。病気や病弱な方は無理だが、より長く働き老後資金を上積みできる。しかし、「低所得者の負担が重い」などと自民党内で慎重論が強く早々に見送られた。

年金制度への理解不足ではないか。国民年金は、自営業者の所得把握が難しく、所得差を無視して一律の定額保険料を課してきた。その欠点を補うため、保険料が払いにくい場合の免除を設ける。申請すれば全額、4分の3、半額、4分の1の免除を選べる。

基礎年金の半分は国庫負担で、全額免除でも正規給付の半額(国庫負担分)は支給される。半額免除では半額に加え、保険料2分の1の半分(全体の4分の1)納めたから年金は正規の4分の3を受け取れる。

つまり支払い能力に応じた段階別保険料で、低所得層が活用できるのだ。

そんな制度の活用方法はなかなか浸透しない。何しろ基礎年金の半分は国庫負担分と知るのはわずか31%(2023年度国民年金被保険者実態調査、有効回答約1万7000人)。

厚生労働省は、5年納付延長案を次期改定への検討規定で残した。土俵際で辛うじて踏みとどまった格好だ。もちろん他の難問もある。納付延長と給付増に伴い国庫負担も、基礎年金底上げ策と同様に1兆円規模に膨らむ。これは政治の知恵と決断を待つほかない。

石破政権は、就職氷河期世代の老後支援策を6月中にまとめるが、年金の支えこそ最大の応援のはずだ。

みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職

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