健康保険証、マイナカードに一本化へ 介護現場から懸念の声

2023年0613 福祉新聞編集部
打ち合わせをする長谷川さん、天野さん、落合直人施設長(右から)    

 2024年秋に健康保険証を廃止して、原則マイナンバーカードに一体化するマイナンバー法などの改正法案が6月2日、参議院本会議で賛成多数により可決、成立した。施行は一部を除いて公布日から1年3カ月以内の政令で定める日。

 

 発行済みの健康保険証は、改正法の施行後最大1年間有効とする経過措置を設ける(先に有効期間がきた場合は有効期間まで)。マイナンバーカードを持たない人には保険診療を受けられるように資格確認書を発行する。有効期間は1年を限度として保険者が設定する。

 

 要介護者や認知症の人などについては、ケアマネジャーらがマイナンバーカードや資格確認書を代理申請し、施設長が入所者のカードなどを管理することが検討されている。

 

 改正法ではほかに、マイナンバーとひも付けする公金受取口座の登録について、年金受給者の登録を促進するための制度を創設する。

 

 マイナンバーをめぐっては、医療情報や公金受取口座が別の人のマイナンバーに登録されていたり、マイナンバーカードで資格確認できず患者が10割負担をしたり、トラブルが相次いでいる。

 

 そのため、参議院の委員会では「すべての被保険者が確実に保険診療を受けることができるための措置を講ずる」「特に医療、介護、福祉事業などのセキュリティー対策に関して十分配慮する」など計20項目の付帯決議が付いた。

 

 なお、厚生労働省は介護保険の被保険者証のマイナンバーカードとの一体化も検討している。25年度以降の実現に向けて調査研究を進めている。

「マイナカード管理できない」

 政府は、ケアマネジャーらがマイナンバーカードや資格確認書を代理申請し、施設長が管理することを認める方針だが、介護現場からは懸念と心配の声が上がっている。3~4月に医師らでつくる全国保険医団体連合会が特別養護老人ホームや老人保健施設などを対象にした調査でも、9割が「管理できない」と答えている。

 

 まず課題となるのが、意思確認できない、家族がいない入所者への対応だ。さらにカードの暗証番号は誰が設定するのか、入所者の中にはカードに適した写真の撮影が難しい人もいる。

 

 社会福祉法人すこやか福祉会の特養「葛飾やすらぎの郷」ケアマネジャーの長谷川浩司さんは「ケアマネジャーが当然やるものとなっているのはおかしい」と疑問を呈する。

 

 現在、多くの特養では入所者の健康保険証と介護保険の被保険者証を預かっているが、マイナンバーカードにはさまざまな情報がひも付けられるために責任がより重くなる。入所者の緊急時の病院受診に備えて複数の職員がマイナンバーカードを扱える状態にならざるを得ず、紛失や盗難のリスクが高くなる。

 

 心配する入所者の家族から施設で預かることへの同意が得られないなど、家族との関係にも影響を及ぼしかねない。

 

 介護現場はただでさえ忙しい中、新たに業務が増えることになる。同法人統括マネジャーの天野義久さんは「カードと暗証番号は別々に保管しないといけないし、毎月のチェックも必要。業務負担が増える分の手当てをしてほしい。安全に預かるためのシステムも提示してほしい」と話している。

 

 今後、具体的な運用が示されることになるが、改正マイナンバー法の参議院委員会での付帯決議には、医療、介護、福祉施設などの事業者に対して、マイナンバーカードの代理申請や管理などを強制するような施策は行わないことが盛り込まれている。

 

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