とよた市民福祉大が開学10年 529人修了、地域の担い手に〈豊田市社協〉

2025年0706 福祉新聞編集部
第10期生の入学式。辻邦惠豊田市副市長が「キーワードはつながり合い」とあいさつした

市民の心に福祉の芽を植え続けている「とよた市民福祉大学」が6月14日、10期生を迎えて入学式を行った。主催は豊田市社会福祉協議会。福祉経験が「ゼロ」の市民を「イチ」にする連続講義。誰もが歩み出せる「はじめの一歩」の支援が使命だ。巣立った市民は529人。民生委員・児童委員や介護職員など、地域福祉の担い手になっている。

入学式の会場は、豊田市社協が入る豊田市福祉センター。

「できる範囲で地域福祉を進める仲間となってほしい」

安田明弘学長(豊田市社協会長)は、74人の新入生にこう祝辞を述べた。「できる範囲で」の言葉から、市民福祉大の考え方が読み取れる。

隣近所に、おせっかいやきがいたら、大体の課題は解決する。専門職でなくていい。おせっかいレベルの「福祉の心の養成」からまずやろう、という指針だ。

啓発から人材育成へ

豊田市社協は2016年4月、外部委員5人による大学の運営委員会を設けて、委員長に名古屋医専教官の山村史子さんが就任。6月に福祉入門コース、翌17年7月に家庭介護コースを開講した。

受講料は通期で3000円。福祉入門コースは1講義3時間。12講義で地域、高齢、障害、児童福祉の座学や演習がある。

家庭介護コースは、1講義3時間を基本に14講義。介護保険や介護技術の基本、医療全般、認知症などを学ぶ。

講師は、山村さんをはじめ、NPO法人理事長ら5人の運営委員のほか、大学教授や病院長らが務める。

実は、市民福祉大の開講計画は1991年に生まれていた。

「将来、大変な高齢社会になる。従来の啓発・啓蒙型の社会教育では手遅れになる。人材育成型の社会教育にしないと……。そんな思いがありました」

こう話すのは、元豊田市社協常務理事兼事務局長の中田繁美さん(現市社協法人化50周年企画担当主幹)。当時、豊田市の高齢化率は3%。現在は24.8%になっているが、その時は、危機感は浸透しなかった。中田さんは、10年前の開講を振り返って「最初の構想から25年。ようやく形になりました」。

小さな気づき、福祉芽生え

中田さんと二人三脚で歩んできたのが、運営委員長の山村さんだった。

「高校生から80代まで、受講生は全世代にわたります。女性が多く、毎年7~8割。9期までの修了生は529人。調査をすると、うち171人が『地域で活動している』と回答してきました」

同窓会長の光野勝雄さんは、名鉄豊田市駅前にある特別養護老人ホームの交流スペースを活用して、特養の高齢者とこどもを含むさまざまな世代が交流する「街カフェ・アメニティ」をつくっている。入学式の司会を務めた石原香代さんも1期生だ。光野さんらと一緒に、こども学習支援活動にも参加している。

民生委員・児童委員になった修了生が33人、介護施設従事者8人……。福祉系大学や専門学校に入学した修了生も3人いる。

山村さんは言った。

「隣のおばあちゃんに声を掛けて、朝のゴミ出しを手伝い始めた修了生がいます。見守りにもなり、SOSも受け止められる。そんな方を含めると、ほとんどの修了生が『地域福祉の担い手』になっていると言えます」

会場には、全社協の村木厚子会長の姿があった。入学式の後に、10期生の第1回講義(公開講座)があり、その講師として招かれていたのだ。

「大学の学びで、受講生のみなさんの可能性が広がればいいですね」

柔らかな口調で、エールを送った。