「子の利益」確保へ 共同親権を柱とした民法改正案を閣議決定
2024年03月19日 福祉新聞編集部政府は8日、離婚後の未成年のこどもの親権を父母が共同で行使できるようにすることを柱とした民法改正案を閣議決定した。父母の一方のみが親権を持つ現行制度を改める。親権行使についても婚姻中の父母を含め共同行使の原則を明確にする。すべてのこどもに関係する大きな改革となり、児童福祉施設にも影響が及ぶ。
同日、法務省が改正案を国会に提出した。成立すれば公布後2年以内に施行される。
小泉龍司法務大臣は同日の会見で「改正案はこどもの利益を中心に組み立てられた。まずはしっかり国民の皆さんに理解してもらいたい」と述べた。
改正案は父母の協議で共同親権か単独親権かを決めるとした上で、合意できない場合は家庭裁判所が「子の利益」の観点で決める。
こどもを虐待する恐れがあるケースや、配偶者からの暴力(DV)により親権の共同行使が困難なケースについては、家裁は必ず単独親権にする。
児童福祉施設、学校、医療機関にも影響
離婚後も父母が協力して養育したり、こどもの住む場所や進学先、医療同意といった重要事項を話し合って決めたりすることは、父母の関係が良好であれば現行制度でもできる。
離婚後の父母がともに親権を持つことは、こどもと関わる福祉施設、学校、医療機関といった第三者に法的な地位を主張できる人が2人になるという点で意味が大きい。
そのため、日本産科婦人科学会などは昨年9月、「医療行為が必要なときに両方の親権者の同意を得る必要があれば、必要な医療実施が不可能あるいは遅延することを懸念する」と表明した。
親権の行使についても条文を新設する。
共同親権を求める立場からは「婚姻中に片方がこどもを連れて別居すると、離婚後の親権者は連れていった親になる例が多い」とする批判がある。
連れていった親がこどもを不適切に養育する例もあるとして、父母の合意のない子連れ別居を阻止する必要性を強調。婚姻中だけでなく、離婚後に父母がともに親権を持つ場合も親権行使は共同であるべきだとしている。
こうした主張を受け入れる形で、改正案は、親権は父母による共同行使が原則だと規定。例外的に単独行使できるのは、「父母の一方のみが親権者」「他の一方が親権を行使できない」「子の利益のため急迫の事情がある」という場合だとした。
何が「急迫の事情」かは不明だが、法務省はDVのケースはこれに当たると説明。しかし、DV被害者らは「例外」とされた急迫の事情を第三者に理解してもらうのは、今まで以上に難しくなると懸念している。
また、改正案は離婚後の親権者を決めた後で家裁が変更する場合も、片方からもう一方への変更だけでなく、双方への変更もできるよう条文を改めた。
こどもやその親族が変更を請求できる。改正法施行前の離婚にもこの規定は適用されるため、その影響は広範囲に及ぶ。
都内で母子生活支援施設を運営する、社会福祉法人大洋社常務理事の斎藤弘美さんの話 法案を見ると、婚姻中、離婚後のいずれも、立場の弱い人を守れるか不安になる。まず、婚姻中に父母の一方が相手の暴力(DV)から逃れるため、こどもを連れて別居するのが難しくなるだろう。
法案は、親権は父母の共同行使が原則であると明確化した。一方、DVから子連れで逃げるなど「急迫の事情」があれば、例外的に単独行使できるという。
こどもの住む場所の指定を単独でできるというわけだが、「急迫の事情」であることを第三者に理解してもらうには、多くの時間と労力がかかるだろう。例えば、母子生活支援施設に入所しようとしても、入所を検討する福祉事務所は、父の持つ親権を意識してより慎重に判断せざるを得なくなる。
母子生活支援施設は、主な入所理由をDVとする人が約6割に上るのが現状だ。改正案通りになれば、施設運営にも大きな影響が及ぶと見込まれる。
また、離婚後の親権について、改正案は単独か共同か父母の話し合いで決めるというが、現在でも母子生活支援施設でこどもと暮らしながら離婚協議することは、精神的な負荷が大きい。
話し合いがつかず、裁判所の判断に委ねることになった場合、DVの被害を裁判所に認めてもらうのも大変な作業だ。法案審議では、立場の弱い人が不利にならないよう慎重に議論してほしい。