精神医療も当事者目線 県がヒアリング開始〈神奈川県〉
2025年10月01日 福祉新聞編集部
神奈川県は9月19日、精神疾患を抱えた人が生きやすい社会にするため、当事者の声を対面で聞く取り組みを始めた。同日、神奈川精神医療人権センター(藤井哲也会長、横浜市)を職員2人が訪問し、同センター会員約40人に対して「理想の生き方」「自分らしく生きられる社会になるには」をテーマに、約1時間ヒアリングした。
今年度、約8700万円を計上した新規事業「当事者目線の精神科医療」の一環で、年度内に同様のヒアリングを3回程度行う。それを踏まえ、精神障害者が暮らしやすい社会づくりを目的とした検討会を開くことも視野に入れる。
同日のヒアリングはそのキックオフで、統合失調症の当事者やその親、就労支援事業所に勤めるピアスタッフらが自身の考えを1人ずつ披露した。
ある男性は「未成年のうちは医療を受けるにも自分で決めさせてもらえない。親の権利が強すぎるのを改めるべきだ」と主張。別の男性も「安心して休める入院の環境を整えてほしい」とした。
精神疾患のある息子を自殺で失った男性は「この疾患に対する根強い偏見をなくしてほしい」と話し、別の男性は就労し1人暮らしを始めた息子がアパート探しで幾つも断られた経験を語った。
ヒアリングを終えた県の白石功精神保健医療担当課長は、「多くの人がスティグマ(偏見)を感じており、特に住まいや職業の選択肢が限られるという意見が印象に残った」とコメント。今後、アルコールなどの依存症当事者にもヒアリングする意向を示した。
同センターはNPO法人さざなみ会(堀合悠一郎理事長、横浜市)に設置された民間団体。当事者やその家族がボランティアとして精神科に入院中の患者からの電話相談に応じたり、精神科病院に出向いたりする。
県は県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」での殺傷事件を踏まえ、2022年10月、当事者目線の障害福祉推進条例を制定。精神科医療については24年1~3月、県内70の精神科病院の実態について、患者やその家族から372件の意見を集めた。
今年度からの「当事者目線の精神科医療」はその意見を踏まえたもので、「行動制限の最小化」「身体合併症の連携モデル事業」「病院内の見守りカメラ設置」などを進める。