津久井やまゆり園 障害者殺傷事件から9年 地域との交流が進化

2025年0805 福祉新聞編集部
分場で働き始めた島田さん(右)

神奈川県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(永井清光園長、相模原市)で、知的障害のある入所者19人が園の元職員、植松聖死刑囚(35)に殺害された事件から7月26日で9年。同園の入所者と地元住民との交流は新しい段階に入った。特定の日の特別な行事になりがちな交流は、日常に溶け込んだものへと進化し始めた。

「あー、あー、うー」。7月26日、県主催の追悼式で入所者代表の島田昌尚さん(55)は、追悼文を読み上げる永井園長の隣で合いの手を入れた。

言葉を話せない島田さんは9年前のあの日、最も死傷者の多かったホームにいた。修羅場をくぐり抜け、現在は入所者自治会の副会長。追悼式では、犠牲になった仲間に元気な姿を見せた。

分場が誕生、職住分離

今年に入り、島田さんの生活は変化した。園は6月、生活介護事業の定員66人のうち10人を、園の近隣にある建物に移した。「分場」の誕生だ。

「分場」は園から通う勤務先だ。単発の行事で出掛けるのとは違う。通勤途中ですれ違う地元住民とのあいさつ、草花から感じ取る季節のうつろいといった刺激が日常になる。

住まいと職場を分ける「職住分離」を進めて約1カ月。じっとしていられないこともあった島田さんは、広いスペースで作業に没頭し、時折笑顔を浮かべる余裕も見せる。

農作業で地域と協働

地元の千木良地区で育ち、田園調布学園大(川崎市)で地域福祉を学んだ谷口賢史さん(22)が4月、同園に就職したことも新しい風を吹き込んだ。

事件後、地域と園の交流が薄くなったと感じていた谷口さんは同大在学中、住民と入所者が大豆を育てることを企画、実行。職員になってからはハーブ栽培をリードした。

栽培、収穫、加工、販売と進めるにつれ、人の輪が広がり、地域を園に取り込んだ。

谷口さんは「生活の満足度を高めるのが私の仕事」とし、入所施設を否定する議論には「その人に合った暮らしを時間をかけて探り、考えるのが入所施設の役割だ」と返す。

暮らしの中身に着目

暮らしの中身を問う声は事件後、年々強まっている。

施設だろうと自宅だろうと、どこに住んでいても普通の暮らしを――。日本知的障害者福祉協会の樋口幸雄会長は7月23日、神奈川県知的障害施設団体連合会(出繩守英会長)主催の追悼集会でこう語った。

入所施設の在り方を議論する厚生労働省の検討会でも論陣を張る樋口会長は、施設内で生活が完結する形から脱することが課題だとし「9年前の事件を機に日本の福祉が変わらないとしたら、亡くなられた人に申し訳ない」と力を込めた。

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