「運動イメージ」を活用した声掛け〈高齢者のリハビリ 72回〉
2023年12月15日 福祉新聞編集部前かがみ姿勢の悪循環
歩くことは日常生活において重要な能力で、歩く能力の低下は日常生活動作の低下に直結する一つの要因となります。
加齢とともに、身体機能は徐々に低下していきますが、可能な限り現在の機能を維持するようにしたいものです。
高齢者の歩き方の特徴として「体が〝前かがみ〟で歩いてしまう」ということが挙げられます。前かがみで歩くようになると、膝が伸びずに足が前に出にくくなります。歩幅も短くなり、歩くスピードが低下します。前に進む力が弱くなるため疲労しやすくなります。そうなれば、歩くのがおっくうになり、歩行の頻度は減り、さらに歩く能力が低下するという悪循環に陥ってしまいます。
このようなことにならないよう、私たちは「視線を前に向けて歩いてください!」「背筋を伸ばして歩いてください!」と声を掛けて指導をします。しかし、このような声掛けで歩き方が改善する人もいますが、そうではない人がたくさんいます。
「運動イメージ」活用した声掛け
今回はそのような人にお薦めの「運動イメージ」を活用した声掛けを紹介します。
「運動イメージ」は、最近はスポーツの分野でも取り入れられ、リハビリの分野でも導入されています。リハビリの現場では「天井から頭にひもでつながっている操り人形のように上から操られているイメージで歩いてください」と指導すると、身体を起こし歩けるようになることをよく経験します。イメージが難しい人は特に記憶に残っている場面を思い出すとイメージしやすくなります。特に感動的であったり、悔しかったり、うれしかったりと、感情を伴っていると記憶にも残っているのでイメージしやすくなります。
例えば、中学校の教師をしていた人であれば「体をまっすぐにして」より「黒板にチョークで書くときのように背筋を伸ばして」と声掛けをします。さらに言うなら「初めて緊張しながら教壇に立ち、自己紹介で黒板に名前を書いた時のあの姿勢のように背筋を伸ばして」と声を掛ける方が、より具体的にイメージしやすくなります。
元バレーボール選手であった人は「優勝を決めたブロックをした時のように背筋を伸ばして」と声掛けする方がイメージしやすくなり、歩く姿勢がよくなります。
このようにその人に合わせた声掛けをするためには、過去にどんな仕事をしていたのか、何か趣味はあったのか、どう生きてこられたのかなどを知ることが必要となります。
知り得た情報をもとに会話しながらイメージしやすい声掛けにつなげたいものです。
患者や利用者への声掛けには分かりやすい「運動イメージ」を意識してみてはいかがでしょうか。
筆者=清水慎吾 香椎丘リハビリテーション病院 主任
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長