家族と笑顔で過ごすためのシーティング〈高齢者のリハビリ 55回〉

2023年0804 福祉新聞編集部

 コロナ禍で家族との面会がなくなった時、家族と過ごしている時間の患者の表情がいかに豊かで笑顔が多かったのかと感じました。それまでは当たり前に見ていた光景がなくなり、入院中の患者と関わるのはマスクをした病院スタッフのみでした。そんな光景を見ながら、改めて家族と過ごす時間はかけがえのない時間なのだと認識しました。

 

 患者の笑顔などを見ていてふと思い出したことがありました。以前入院していた患者でお尻に床ずれのある人がいました。その人の床ずれは非常に大きく、少しでも触られたり、擦れたりすることでも表情がゆがむほどの痛みを感じていました。リハビリテーションをする際は、いつも眉間にしわを寄せ、特に座る姿勢では床ずれの部分に体重がかかり、より表情がこわばっていました。

 

 家族が面会に来ている際も険しい表情をしており、笑顔が見られることはありませんでした。床ずれの部分に負担がかからないように、いつも横を向いて、外の空気を吸う機会もありませんでした。

 

 チームの話し合いで、全身の筋力低下を防ぐためにも何とか離床をして過ごす時間をつくれないかと、シーティングを行うことになりました。私が参加していた勉強会でも適切なシーティングは座骨結節で体重を支えることができるため、床ずれのできている場所には負担はかからないと学んでいたこともあり、実践しました。

 

 ティルト・リクライニング機能のある車いすと、除圧機能の高いクッション数種類を準備してシーティングをしていきました。数回にわたる調整と患者自身の努力もあり、座っていても床ずれの部分に痛みがなく座れるようなシーティングを行うことできました。初めは短い時間から離床を行い、徐々に離床時間を増やしていくことができました。床ずれも悪化することなく、少しずつですが改善がみられました。

 

 リハビリテーションに関わる視点から考えると、離床時間が長くなることは良いことですが、それ以上に、痛みがなく起きられるようになったことで表情が柔らかくなりました。患者から会話が始まることや、自ら「少し起きようか」など離床に対して前向きな発言がみられるようになりました。

 

 多くの変化の中でも最もうれしかったのは、面会に来た家族と車いすに乗って離床し、笑顔で話をしている姿でした。お孫さんと楽しそうに遊んでいた姿が印象に残っています。家族は患者の苦しい表情ばかり見ていたためか、笑顔で過ごされる本人の姿に驚かれ、感謝の言葉をくださいました。

 

 床ずれ以外にも、筋緊張の緩和や摂食嚥下などシーティングが関われる範囲は非常に広いです。コロナも5類に引き下げられ、施設などでも患者や利用者と家族が会う時間は増えていくことでしょう。家族と過ごす貴重な時間が笑顔あふれるひとときになるために車いすを利用している人のシーティングを見直してみてはいかがでしょうか。

 

筆者=会田直弥 赤羽リハビリテーション病院 副主任 

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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