更衣・整容動作に必要な機能

2023年0217 福祉新聞編集部

 私たちが朝起きて最初に行う動作は何でしょうか。生活習慣によってさまざまですが、パジャマから着替える人や、歯磨きや整髪、ひげそりなどから1日をスタートする人もいると思います。どちらも生活していく上で大切な動作となりますが、着替えを行う動作を「更衣動作」と言い、身だしなみを整える動作を「整容動作」と言います。これらの動作は、リハビリテーションを通して患者さんを支援させていただいている私たちセラピストにとっても、注目すべき大切な動作となります。

 

 ではこれらの動作を行うにはどういった機能が必要なのか、簡単に解説します。

 

 まず更衣・整容動作において必要な機能には「姿勢を保った状態で手や足を動かすことができる」という共通点があります。

 

 具体例としては、ズボンや靴下を履くために座った状態で足に手を伸ばす動きや、立った状態で膝や腰に手を引き上げるような動きが必要となり、上着を着るためには袖を通す動きや前にかがんで頭を通す動きが必要になります。また、歯磨きや整髪、ひげそり、化粧をする整容動作では、体や頭を固定した状態で肩や肘、手を細かく動かせる能力が必要となります。

 

 人間の身体は大きく四つの部位に分けられ、上から頭、上肢(肩~手)、体幹(胴体)、下肢(股関節~足)と分けることができますが、木の幹に枝がつくように体幹(胴体)を中心に頭部、上下肢がついている形態となっています。

 

 更衣・整容動作には上肢の動きが重要ですが、それに加えて体幹が安定していることが重要となります。個人差はありますが、片方の上肢の重さは体重の4~6・5%程度と言われており、両方の上肢で10%として計算すると、体重が70キロの人では7キロもの重みを体幹で支えながら自在にコントロールする必要があるのです。

 

 さらに下着の更衣では、座った状態で上肢を操作するだけでなく、足を下着に通すために足を上げる動きや、腰まで衣服を上げるために殿部をいすから持ち上げる動きが必要となり、体幹だけでなく、股関節の機能も必要となります。体幹と各関節の機能がこういった複雑な動作を可能にしています。

 

 以上のことから更衣・整容動作は多くの構成要素から成り立っており、中でも姿勢を保つことや、その状態で手足を自由に動かせるバランス能力、それを担保する体幹の安定が重要と言えます。体幹や股関節の筋力は加齢によって低下しやすいと言われており、姿勢が悪くなる原因や転倒のリスクを高める可能性があります。

 

 体幹、股関節の機能を維持するためには日ごろの運動が重要であり、厚生労働省も「日常生活上の障害を効率的かつ効果的に予防するためには運動習慣として長期的に実施することは有効であり、歩行運動や下肢・体幹部のストレッチングおよび筋力トレーニングや種々のレジャー活動、軽スポーツなどを積極的に行なうこともまた有効である」と推奨しています。

 

 病院や施設などで行う座った状態や立った状態で上下肢を動かすようなレクリエーションは、患者さんにとっての楽しみだけでなく、間接的にバランス・体幹機能の維持、向上につながるリハビリにもなりますので、積極的に取り入れていきたいですね。

 

筆者=星野樹 東京品川病院 主任

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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