〈論説〉SNSとメディア 「情動」と「情報」の攻防

2025年0226 福祉新聞編集部

次の文章中の空欄□に入れるのに最も適当なものを0~4から一つ選べ。

「インターネットで情報をやり取りする際、発信人が本人であることを確認するためにデジタル署名が利用できる。また、デジタル署名を用いると、その情報が□を確認できる」

0 複製されていないか

1 暗号化されているか

2 改ざんされていないか

3 どのような経路で届いたか

4 盗聴されていないか

1月の大学入学共通テストで新学習指導要項に即し初めて作成された「情報Ⅰ」の最初の設問である。

正解は2で、筆者は勘で当てたが、その後は手も足も出なかった。何しろ「IPアドレス」「HTML」「7セグメントLED」「チェックデジット」などなど、用語自体が分からない。「情報」業界で生きてきたつもりだが、完全に落ちこぼれた。

情報社会の変貌はすさまじい。特にインターネット活用のSNS(ネット交流サービス)の利用者は全世界で推定50億人。X(旧ツイッター)、フェイスブック、ライン、インスタグラム、ユーチューブなどが活況を誇る。誰でも〝1人テレビ局〟〝1人週刊誌〟になって、情報を発信・拡散・交流できる。

その威力は生活の隅々に及び、東京都や兵庫県の知事選で強大な影響力を見せた。一方、時に相手を自殺に追い込む中傷・嫌がらせの横行、振り込み、投資、結婚の特殊詐欺の続発、ウソの求人広告で実行犯を募る強盗事件も相次ぐ。

発信者・投稿者の大半は匿名で、取材・事実確認・編集・校閲などの既存メディアの伝統的な作業は軽視・無視される。情報内容は事実か、正確か、を調査・検証する「ファクトチェック」機関は日本では数団体に過ぎない。常に「誤情報」「偽情報」の恐れがつきまとう。

メディア史専攻の佐藤卓己上智大教授は、この現象を「情動社会」と名付け、こう解説してくれる。

「情報社会で求められるのはリテラシー(読み書き能力)で、前後の文脈を押さえながら理解する。他者の文脈を把握し、歴史という時間軸や地域事情などの空間的な条件も前提になる」。ところが、SNSを主流とする情動社会では文脈は不要で「Xは140字の後に何が続くか気にならない、インスタは『映える』かどうか、切り取った部分だけ。断片でもいいし、印象でいい」(毎日新聞2024年11月21日夕刊要旨)。

どう対処すべきか。

佐藤教授は意外にも「待つこと」と助言する。「情報の真偽も時間がたてばおのずから分かる場合が圧倒的に多い」からだ。もちろん既存メディアは待つのではなく、おびただしい「情動」の真偽を調査・検証・公表する使命がある。自らファクトチェック機関になる覚悟だ。


みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職

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