〈論説〉高額療養費の改定案 皆保険の大黒柱を守れ

2025年0125 福祉新聞編集部

病気やケガの際は医療サービスを求めざるを得ない(いわば強制消費)。いつ治り、いくら費用が掛かるか、なかなか分からない(期間・費用の予測困難性)。医療職がノウハウや知識を持ち、患者・家族には乏しい(情報の非対称性)。

三つの特質を併せ持つのは医療だけだろう。お米は必需品だが、必要量や品質は判断できる。教育や習い事は高みを目指すと限りないが、中断・中止はできる。骨董品や美術品の価値は素人には見極め難いが、買うかどうかは自由だ。

近似するのは介護サービスだが、強制消費の時期は高齢期に集中し、医療ほど高額ではなく、サービスの質は素人もある程度は分かる。そんな違いはある。

医療の特質に応じて日本の医療制度は整備された。国民全員が強制消費に備える「皆保険」を発足させた(1961年度)。当初の保険給付率は5割(自己負担5割)、高価な薬剤投与は認めないなどの制限診療だった。

やがて給付率7割や制限診療の撤廃に踏み切る。だが、3割負担でも高価な薬剤や手術、長期の療養で患者は経済的な苦境に陥る。おカネ持ちでなければ治療を続けられない。

その対策で「高額療養費制度」が創設された(75年)。自己負担額が一定以上の場合は超過分を保険給付する。費用の予測困難性を克服する画期的な方策だ。

例えば、70歳未満の平均的所得層で3割負担の場合、医療費が月額100万円の自己負担は30万円ではない。高額療養費制度で8万100円+(医療費100万円―26万7000円)×1%=8万7430円。つまり26万7000円の3割分の8万100円をいわば最低負担額に、それ以上の医療費は自己負担分を1%に抑える。

10年ぶりの今回改定案では、中間層の最低負担額を10%引き上げ8万8200円+(100万円―29万4000円)×1%=9万5260円。

この70歳未満では高所得層は15%、低所得層は2・7%の負担増にされる。年齢、所得、自己負担割合(1~3割)、受診回数などで負担額はさまざま。さらに3年かけて3段階で引き上げられ、改定案は複雑多岐だ。

70歳以上では外来のみの負担限度額や、医療と介護の負担が一定額超で払い戻す合算療養費制度も改定される。制度は複雑になるほど理解されにくくなる。

高齢化や医療の高度化による医療費の膨張に追われ、制度自体が危機にある。だが、薬剤の高騰などはむしろ制度の大事さを教える。月額1000万円超は珍しくもなく、最高は脊髄性筋萎縮症の特効薬「ゾルゲンスマ点滴静注」で約1億6700万円。この1~3割を払える患者は何人いるのか。

「皆保険」の大黒柱の在り方を国会で徹底論議してほしい。


みやたけ・ごう NPO法人福祉フォーラム・ジャパン副会長、学校法人・社会医学技術学院理事