社会福祉法人風土記<4>東京リハビリ協会 下 独立した障害者8人が結婚
2015年07月24日 福祉新聞編集部好きなところで暮らし、自分のニーズと能力にあわせて自立した日々を過ごす。戦後、北欧で芽生えた脱施設化(ノーマライゼーション)は障害者ならずとも、人間の共通した願いだ。言うは易く、為すは難しいこの課題に授産施設としてわが国で初めて挑んだのが社会福祉法人「東京リハビリ協会」(東京都立川市、緑川清美理事長)であることはあまり知られていない。
きっかけは1997(平成9)年、1日30㌧処理できる連続式洗濯機をセットした日の出事業所(東京都日の出町)の開所だ。福祉ホーム(定員14人)も併設している。その日までに老朽化した稲城リハビリ(稲城市)は閉鎖。同時に、男女40人の利用者が寝起きする寮の廃止と職住分離―民間住宅などへの転居―を決断した。
その5年前、「授産施設制度のあり方に関する提言」を厚生省(現・厚生労働省)は公表している。障害があっても地域へ、という提起だ。「厚生省の後押しもあったが、自立はそもそも法人のポリシーですから」(斎藤公生理事・2代目理事長)。
とはいえ、20~60代の40人の行き先探しは簡単ではない。身体、知的、精神と障害の内容やQOL(生活の質)もさまざま。15~20年の長期滞在者は19人(47・5%)もいた。
地域の主婦ボランティアが支えた
どう生きたいかは当事者の決めること。心配する家族も交えて面談を重ね、95年には生活実習にトライした。10軒以上の不動産業者を歩き、障害者を受け入れてくれるアパートなどを当たった。「そんな物件はありません」「家主が認めないでしょう」。冷たい返事が大半だったという。
その年の夏。稲城市内で大型4SLDK(126平方㍍)を一つ確保できた。周りの住戸へあいさつ回りした職員に住民はびっくり。管理組合から「障害者は事故を起こす」など偏見に満ちた横やりが入ったものの、法人側が注意を払うことで了解を得て、1チーム4人各2~3週間の暮らしレッスンを約7カ月間展開した。
トラブルはむろん皆無ではない。聴覚障害のある利用者がドアのレバーロックを内側から掛けたままにし、ベルを鳴らしても聞こえないことがあった。上階より避難ばしごでベランダ伝いに降り、窓から入った。唯一の〝事故〟だったという。
それより一同感激したことがある。マンションの主婦8人がサポーター(ボランティア)として参画してくれたのだ。部屋を訪れ、火の使い方、風呂の沸かし方、みそ汁など調理や配膳、掃除のやり方まで教えてくれる。利用者に新たな世界が広がっていく。
40人に対するアンケートが興味深い。新しい職場になる日の出事業所へどこから通いたいかを尋ねた。まだ実習中の1回目(95年10月)。「福祉ホーム(日の出事業所)から」33人、「民間住宅から」1人。それが実習終了後の翌年3月、それぞれ26人、12人と民間住宅の比率がぐんと伸びた。訓練と環境次第で自立への意欲は変わることを教えてくれる。
現に生活のノウハウを覚えて独立した入所者のうち男女8人が結婚。障害者同士のカップルもある。「寮にいたら結婚など考えもしなかったはず。障害は重くとも自立できると本人や職員が知った意義は大きい。主婦の協力は驚きであり、うれしかったです」と斎藤理事は振り返る。
障害者が生きやすい社会を
福祉ホームへ移った14人を除けば、26人が自立し、施設解体は一定の成果を残した。いま立川、日の出の両事業所へは計約210人の利用者が通ってくる。福祉ホームに空きが出ても「いまさら入りません」と断わる人さえいるほど。人は「管理」を嫌う。残念ながら、授産施設ではあとに続く職住分離への挑戦はまだないが。
一方、厳しい現実も。障害の重度化につれ生産効率は落ち、工賃は40人が自立した時点の年平均115万円から半分ほどにダウンしている。それでも前回紹介したように、都内の同じ施設に比べて、協会の工賃は高い。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」というラグビー精神で頑張る。
さらに、自宅や民間アパ ートから通う7割の利用者からは、グル ープホームを望む声が年々高まっている。理由は介助者である親など身内の高齢化だ。
「今年度から2年間でグループホームを二つ立ち上げる計画です。そのためにも国に頼らずにすむ経営体質づくりが急務です」と緑川理事長(54)。築後23年たつ立川事業所の耐震化工事、洗濯設備の更新など目の前の投資予定は10億円を下らない。少々の内部留保などすぐ消えてしまいそうだという。
実はもっと頭が痛いのは、いったん民間に雇用されたものの弾き飛ばされる企業離職者、そして特別支援学校卒業者の就労継続支援B型事業への受け入れ増加だ。「なかには企業で働ける能力のある人もいますが、そうした企業離職者などの割合がうちの施設でも多くなっています。そうした人たちが生きやすい世の中を目指す。これ以上の社会貢献はないと思っています」。緑川理事長はきっぱり言った。
(横田一)
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