「社会と関わり、自立の道を」知的障害援産に注力する福祉法人

2023年0908 福祉新聞編集部
ホテルのステージにも立つ富岳太鼓

 より意欲的に社会と関わり、自立の道を――。知的障害者ケアを中心に展開する社会福祉法人富岳会(静岡県御殿場市)は積極的に収益事業を進めている。介護ヘルパーからプロ顔負けの腕前を誇る和太鼓演奏や菓子作りまで活動の幅は広く、インクルーシブ(包括的)な空間を目指す。

 

 西に雄大なコニーデ(富士山)を望むなだらかな高原の5ゾーンに法人施設は広がる。本部棟ゾーンには全国的に珍しい全室個室の障害者入所施設「富岳の郷」(定員100人)や就労継続支援B型事業所、ビニールハウス2棟、アトリエなどと並んで機能回復訓練棟「富岳太鼓パレス」(2003年建設)がある。18歳から40代の男女14人が日々練習に励み、年間契約を結んだ隣町のホテルのステージに立つ。ギャラもあるが、「みんなと演奏しているときが一番楽しい」とメンバーは声をそろえた。

 

 どのB型事業所も骨を折るのは就労促進と工賃(給与)アップだ。富岳会はベーカリー(1988年)を皮切りに、幼稚園の給食や注文弁当の調理・宅配、清掃サービス、リネン(タオル洗濯)、国際コンクール(ベルギーのモンドセレクション)で金賞に輝いたバウムクーヘン作り、温室での高床式野菜栽培、そしてこれらを自前の店舗や車での移動スーパーなどで販売といった工夫を重ねてきた。三島市にある青果市場の売買参加権さえ持っている。さらに幼児を対象に音楽、習字、サッカー、体育、和太鼓といった専科の教室(塾)も開く。

 

 特に注目されるのは、障害者が専門的な「知識」と「技能」を身に付け、資格を取れるよう2002年にスタートした「知的障害者等居宅介護職員養成」(県事業)。2年前に滋賀県で実施したのを参考に静岡県も着手した。ネックは講師の確保。現在、富岳会をはじめ▽農協共済中伊豆リハビリテーションセンター(伊豆市)▽明光会(静岡市)▽明和会(袋井市)▽天竜厚生会(浜松市)の県内5社会福祉法人が引き受け、今年も9月から来年1月まで特別支援学校の3年生を中心に、全県で約20人が一般研修の倍近い195時間の講義・演習に臨む。修了生の3割ほどが介護現場で働き、富岳会には3人が介護助手として勤めているという。

 

 「人権と尊厳を支える介護」など9時間の講義を受け持つ富岳会の畑原礼子・社会福祉主事(56)は「毎年のように変わるテキスト(制度)を、どうかみくだいて説明していくか。自分たちの勉強にもなる」と話す。勤務時間内の仕事なので特段の報酬はない。

 

 昨年11月の日本太鼓シニアコンクールで優勝し、太鼓チームを指導する2代目の山内剛理事長(65)は「いま工賃は月3万7000円ほど。知的ハンディを抱える人だけの数字でみればトップランクに入るが、2年後には4万5000円まで引き上げたい」と目標を設定した。

 

 その上で、法人の将来について「障害のある、なしを超えてこども同士が、そして高齢者とこどもが交流できる空間をつくり、ブランド化を進める。少子化の中で法人をつぶさないためには先を読まないといけない時代になっている」と抱負を語った。

 

 富岳会=山内令子・初代理事長(88)が経営していた音響部品の下請け工場(廃業)で働く主婦向けに立ち上げた託児所を1970年、保育所(社会福祉法人)にしたのが始まり。頼まれて採用した知的障害のある人の数が年々増え、4年後に授産施設を設立。保育所に自閉症児を受け入れる(75年)などインクルーシブ教育や療育、リハビリテーションに力を尽くしてきた。現在、障害者のグループホーム、特別養護老人ホーム、児童発達支援センターなど14施設を運営。職員約470人。

 

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