生活保護減額違法判決、再改定し追加支給へ〈厚労省専門委〉
2025年11月22日 福祉新聞編集部
生活保護費の2013~15年の引き下げを違法とした最高裁判決への対応について、厚生労働省は17日、専門委員会(委員長=岩村正彦東京大名誉教授)に報告書案を示し、大筋で了承された。13年にさかのぼり、生活保護基準を引き下げる。その上で、違法とされた基準との差額を追加支給する。
13年の改定前の基準に戻すだけでは追加支給が手厚くなると判断した。再改定によって、追加支給額を抑える考えだ。
二重基準に容認と異論
原告に限って再改定しない案も併記したが、その場合、原告とそれ以外の受給者で異なる基準を適用することになる。
委員の間では二つの基準を設けるのも、やむを得ないという容認論と反対論があった。厚労省は統一見解を導くことを断念し、18日に報告書を公表。結論は政治判断に委ねた。
原告側「紛争再燃」
13年改定前の基準に戻し、すべての受給者に差額を満額支払うよう求めてきた原告側は反発を強める。
弁護団は17日、「蒸し返しの再減額改定は断じて容認しない。かかる対応策が選択された場合、紛争の再燃は必至で、早期の全面解決が遠のく」とする声明を発表した。
2・49%を軸に減額
今年6月の最高裁判決は、13年当時の生活保護の基準改定について、物価の下落率(4・78%)を基にした「デフレ調整」を特に問題視し、違法と判断。処分の取り消しを命じたが、国家賠償請求は認めなかった。
今回の専門委員会はデフレ調整に代わる方法を採用。一般低所得世帯の消費水準との比較から、基準を2・49~4・78%引き下げることが必要だとした。
再改定した場合の追加支給の対象となる人の範囲については、すでに保護が廃止された人や外国人も対象になると明記した。死亡した人は対象外とした。
厚労相が首長と協議「負担かけ心苦しい」
最高裁判決をめぐり、高市早苗首相は国会答弁でおわびを表明したが、厚労省は敗訴とは認めていない。
今回の専門委員会では、「差し戻し判決だ」とする意見もあり、13年からの引き下げを正しくやり直す機会を得たというのが厚労省のスタンスだ。
そのやり直しに伴う追加支給の総額は数千億円に上る見込みで、異例の支給事務を担う自治体の負担も計り知れない。18日夜、上野賢一郎厚労大臣は今後の対応をめぐり全国知事会など地方団体の代表者5人と協議した。
上野大臣は「負担をかけることになり、心苦しい」と述べたが、自治体側からは「本市の追加支給の対象は約15万1000世帯で、膨大な事務になる」(大阪市)といった見通しや、事務負担の軽減、財政措置を求める意見が相次いだ。
事務が煩雑になるのを避ける観点から、「特別救済法を制定してはどうか」(東大阪市)という提案もあったが、厚労省はかえって混乱を来す恐れがあるとして、立法する考えはないと回答した。

