生活保護減額訴訟 国に初の賠償命令 名古屋高裁「裁量権を逸脱」

2023年1210 福祉新聞編集部
会見する澤村さん(中央)

国が2013~15年に生活保護基準額を引き下げたのは違法だとして、愛知県の受給者13人が減額処分取り消しや損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、名古屋高裁(長谷川恭弘裁判長)は11月30日、処分の取り消しと原告1人当たり1万円の国家賠償を命じた。全国29の地裁で約1000人が訴えている同種訴訟を通じ、国家賠償を認めた判決は初めてとなる。

 

1審名古屋地裁は20年6月、厚生労働大臣の裁量を広く認めて原告側の請求を退けたが、名古屋高裁は「本件改定は著しく合理性を欠き、裁量権の範囲を逸脱していることは明らかで、違法だ」と断じた。

 

国は13年以降、物価の下落などを理由に、食費などに充てる生活扶助の基準額を段階的に引き下げた。下げ幅は平均6・5%で、削減額は約670億円に達した。

 

裁判では、審議会の専門家による検証を経ず、独自の計算方法でデフレ調整をしたことの是非が争われた。

 

判決は「統計など客観的数値との合理的関連性や、専門的知見との整合性を欠く」と国の対応を批判した。

 

原告側については「もともと余裕のある生活ではなかったところ、本件処分を受けて以降、9年以上にわたり、さらに余裕のない生活を強いられてきた」とし、その精神的苦痛を重くみて国に賠償を命じた。

 

地裁ではこれまで22件の判決のうち12件で処分取り消しが認められた。高裁判決は、原告敗訴とした今年4月の大阪高裁に続いて今回の名古屋高裁が2件目。司法判断が大きく割れる事態が続いている。

 

原告の1人、澤村彰さん(57・愛知県豊橋市)は1日、都内での会見で「やっと認められた。判決には『1日3食を食べればそれで良しではない』とあった。人間的に寄り添ってもらえてうれしい」と語った。

 

一方、武見敬三・厚労大臣は同日の定例会見で「基準設定についての判断は、その手順も含めて適切なものであった。判決内容を精査し、関係省庁や被告自治体と協議した上で、今後適切に対応したい」と語った。