高齢者の不安解消に区社協が終活相談(大阪)

2023年0810 福祉新聞編集部
相談に応じる城東区社協相談員の佐野さん(左)

 独り暮らしで身寄りのない高齢者世帯が高齢者のいる世帯の42%を占め、全国平均の28・8%(2019年厚生労働省国民生活基礎調査)を大きく上回っている大阪市で、終活相談事業などが広がりをみせている。21年10月から事業を始めた城東区社会福祉協議会では、今年度は介護予防教室での展開を決定。隣接する都島区社協でも独居高齢男性を対象に教室を開催するなどして潜在的なニーズの掘り起こしに努めている。

 

 城東区が行っている終活相談事業「ハッピーエンド」では、社会福祉に長年携わってきた佐野正博さん(68)が相談員として独居高齢者の相談に対応している。専門家との調整や行政とのコーディネートだけでなく、死後事務委任契約も進めてきた。

 

 死後事務委任契約では公正証書遺言をもとに、高齢者と城東区社協が司法書士を交えて契約する。契約によって、高齢者が亡くなった際の葬儀や墓、電気料金や介護費用、家の処分などさまざまな手続きを、遺言をもとに区社協が主体となって行える。

 

 契約の対象は原則、こどものいない人に限っている。さまざまな確認事項があるため、これまで契約に至ったのは3人だが、契約が成立した時点で「これで安心して残りの人生を楽しめる」と話した女性もいたという。

 

 ただ、多くの人は契約手続きを先送りしがちだ。ある女性は「残った財産を社会に役立てるように寄付したい」と話していたが、契約せずに終わったために全財産が国庫に納入された。

 

 身寄りのない人が契約のないまま死亡すると、市町村が遺体を火葬して埋葬するだけのため、お墓があっても入れてもらうことができない。

 

 死後事務委任契約の手続きには時間がかかるが、「有意義だ」と判断して、今年度は区内31カ所の介護予防教室で終活について学ぶ機会を設け、死後事務委任契約についても伝えている。

 

 また、男性を対象にした終活講座を設けてきた都島区社協では3月10日、独居高齢男性対象の集いを初めて開き、生前・遺品整理や後見人制度などを学んでもらった。

 

 今年度は3回開催することにしており、6月の1回目には3月の7人を超える9人が参加した。ただ、現段階では死後事務委任契約は行っていない。

 

 死後事務委任契約は福岡市社協の取り組みが有名だ。11年から開始し、今でも全国の社協などが視察に訪れている。

 

 しかし、社協にとって金銭的負担は大きい。城東区社協では、区内の高齢者から遺言による寄付(遺贈)があったため、その寄付で基金を設立。そこから必要経費を賄っているが、文書作成などが必要な司法書士相談の費用は相談者自身の負担となる。年金で暮らす独居高齢者にとって負担は軽くない。

 

 城東区社協の河元義和事務局長は「身寄りのない高齢者が増え、孤独死が増える中、死後事務委任契約は非常に重要。この取り組みがもっと広がれば」と話している。

 

 死後事務委任契約=本人の死去後に、死亡届の提出や葬儀、医療費支払いなどの手続きを本人に代わって行う契約。葬送や家財処分などの費用が掛かるため、契約時に預託金を預かるケースが多い。城東区社協では、実費を見積もった上で預託金を決めているが、最低でも50万円程度掛かるという。

 

福祉新聞の購読はこちら