障害ある子の母、ソーシャルワーク学ぶ 野菜販売で共生社会へ(横浜)

2024年1008 福祉新聞編集部
常連客と話す岡村正美さん(左)と息子の勇輝さん(左手前)

重症心身障害者の母親が大学でソーシャルワーク(SW)を学んで社会福祉士を取得し、成人した息子や同じような立場の人の居場所にしようと、野菜の出張販売を始めた――。

通信制の星槎大(横浜市)は、そんな卒業生の活動を紹介するオンラインフォーラムを開いた。単なる卒後フォローではなく、「地域に不足する社会資源をつくり、共生社会の構築を後押しする」(同大社会貢献室)と位置付ける。

星槎大がフォーラム

フォーラムに登壇した卒業生の1人、岡村正美さん(横浜市)は、重症心身障害の長男・勇輝さん(19)の母親。共生科学部福祉専攻(定員20人)を卒業し、2023年10月から貸しスペースで野菜を売る「おかむら笑店」を始めた。

屋号の通り、朗らかによく笑う岡村さん。しかし、勇輝さんが高校に上がるころ、市内の障害者施設はほとんど空きがない現実に直面し、「卒業後は行く所がなく、誰にも頼れないかも」と大きな不安に襲われた。

実習先で限界も知る

福祉を学ぶ必要性を感じた岡村さんは20年度、星槎大に入学。実習先の障害者施設で、サービスを提供する側に初めて立った。「もっとこうしたいと思っても職員配置の関係上、限界もある」と痛感した。

現在、生活介護事業所に週4日間通う勇輝さん。岡村さんが望んだ週5日はかなわないものの「通い先ゼロ」にはならなかった。それでも大学で学んだり、働きに出たりする同年代の男性と比べ、生活の幅は広がらない。

そのことに胸を痛めた岡村さんは、4年前に畑を借りて育てていた野菜を、生活介護事業所に通わない「隙間の日」に勇輝さんと売りに出た。

活動に賛同して一緒に売る人や顔なじみの客も増えた今、勇輝さんは誇らしげな表情を浮かべる。

卒論の指導に当たった堀越由紀子教授(ソーシャルワーク)は岡村さんを「障害のある息子の母親の視点と、国家資格を持つ専門職の視点でモノを見られる人」と評価。政府が推奨する「リスキリング」(学び直し)により、共生社会をつくることに貢献しているとみる。