B型と一般就労を併用 障害者の収入増に新たな道 東大先端研が新たな雇用モデル模索

2024年0809 福祉新聞編集部

東京大学先端科学技術研究センターは自治体と連携し、障害のある人が地域の企業で短い時間だけ働く新たな雇用モデルを模索している。「超短時間雇用」と呼ぶこの取り組みは、社会福祉法人が中間支援事業者としてサポートするのが特徴。障害者にとっては所得向上と社会参加につながるメリットが大きいことから、自治体の関心も高い。

鍵は中間支援

新モデルは2016年度から先端研の近藤武夫教授が川崎市と取り組みを始めた。障害者は就労継続支援B型事業などを利用しながら、企業で短時間働く。

雇用契約を結び最低賃金以上で働くため、月平均工賃が約1万6000円と言われるB型利用者にとって大幅な収入増となる。一方、企業は「パンの成形」「米の炊き出し」「内視鏡の洗浄」などそれぞれ職務を明確にして採用することで、別の仕事に注力できる。

鍵となるのが企業と障害者をつなぐ「中間支援事業者」の存在だ。自治体が委託した社会福祉法人などがマッチングや採用後のサポートを行っている。

4月に制度改正

こうした新モデルには追い風も吹く。

4月から障害者雇用促進法が改正され、重度の身体・知的障害者、または精神障害者が週10~20時間働く場合、企業の障害者雇用に0・5人分算定できるようになった。従来は最低週20時間だった。

また、一般就労とB型の併用にも風穴が開いた。制度改正を前に、厚生労働省は3月、企業で働く時間が週10時間未満なら併用できる見解を初めて示した。従来の制度は併用を想定していなかった。

こうしたことから新モデルへの自治体の関心も高い。6月に先端研が開いたオンラインシンポジウムには、多くの参加があった。

17年から取り組む神戸市は、引きこもりなど対象を広げて実施。複数の社会福祉法人に中間支援を委託し、導入企業は60社以上に広がる。シンポで同市の福原宣人保健福祉課長は、小売りや製造の職種が多いことなどを紹介し「関わる人を増やし、地域で支えるのが重要」と意義を述べた。

課題は財源

新モデルが広がる鍵は制度のさらなる後押しだ。新モデルでの財源は一般財源や独自基金、国の補助金を組み合わせるケースなどさまざま。中間事業者への委託費も、岐阜市のように1300万円を計上する地域もあれば、別の就労相談事業と合わせて補助する地域もある。

また、B型事業所が利用者を企業に送り出しても制度上の報酬がない現状もある。

近藤教授は「部局に横串を刺す体制づくりも含め、今は首長のリーダーシップが不可欠」と指摘。「障害者がB型事業所を基盤とし、地域の企業でも働く。これは地域共生社会の一つの姿だ」と訴える。

新モデルではB型事業所での活動前後に企業で働く障害者が多く、B型事業の利用日数は減っていないという。