障害者の選択肢増やせ 元利用者殺害で再発防止〈神奈川県〉

2025年0710 福祉新聞編集部
左から高橋課長、佐藤座長、井上一中井やまゆり園長

神奈川県は6月30日、県立の障害者支援施設「中井やまゆり園」の短期入所の元利用者(40代男性)が同園の長期入所を断られ、2024年7月、転居先の千葉県内の自宅で父親(70代)に殺害された事件について、再発防止策をまとめた。

障害者を家族が介護する在宅生活か施設への長期入所かの2択ではなく、期間を定めた「通過型」の施設入所も選択肢として用意することを提唱。その受け入れ先を調整する体制を構築するよう県に求めた。

「重度の知的障害者は施設に入所させるしかない」という考え方が広がることを強くけん制し、暮らし方の選択肢を増やすことを再発防止の柱とした。

同日、県が設置した検証チーム座長の佐藤彰一國學院大名誉教授と県の高橋朋生障害サービス課長らが会見し、明らかにした。

それによると、「通過型」は家族の休息を主な目的とした2~3泊程度の短期入所とは異なり、入所している間に丁寧にアセスメントして支援体制を立て直すもの。再び地域での暮らしに戻ることが前提という。

その旗振り役を担う県は、施設入所待機者の実態を県内市町村がどのように把握しているか、障害者へのサービスの提供体制がどうなっているかを調査中で、年内にもその結果をまとめる。

高橋課長は障害者支援施設の在り方に関する厚生労働省の検討会委員でもあり、今回の事件の教訓を踏まえて提言する構えだ。

殺害された男性は重い知的障害と身体障害があり、24年5月まで両親と小田原市内の自宅で暮らしていた。

年齢を重ねるにつれて自傷行為や暴力が激しくなり、父親は在宅での暮らしは限界だと判断。施設入所を望んだものの、中井やまゆり園ほか県内の施設から断られていた。

父親は24年7月に、転居先の千葉県長生村の自宅で男性の首を絞めて、殺人罪に問われたが、今年3月、千葉地裁で懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡された。