訪問介護、報酬減で職員退職 生活援助の利用にも影響

2024年0715 福祉新聞編集部
ヘルパーに見守られながら歩く根岸さん(右)

4月の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が約2%減額された。報酬は2カ月後に事業所に支払われるため、実際に事業運営に影響が出たのは6月から。千葉県内で二つの訪問介護事業所を運営する社会福祉法人千葉勤労者福祉会(永井出理事長)に現況を聞いた。

「生活を守るために辞めると言われたら止められない」。報酬減額を知った5人のヘルパー(非常勤)の退職を受け入れるしかなかったという門脇めぐみ法人介護部長はもどかしさを口にする。

同事業所のヘルパーは悪天候でも自転車で1日約5軒の利用者宅を訪問する。移動には体力が必要だし、報酬減額で物価高に見合った賃金アップも期待できない。ヘルパーに見切りをつけ、別法人の介護施設に転職した。

法人は貴重な人材を失い、5人合計で月約450時間訪問していた分を埋めなければならなくなった。新規職員は採用できず、本来は事業所内で管理業務をする所長やサービス管理責任者(サ責)がヘルパー業務を増やして何とか対応している。

人件費が抑えられたこともあって報酬改定前後で3・6%増収となったが、「やればできるということではない」と門脇さん。所長もサ責も負担が増え、この状態はいつまでも続かない。増収分には介護職員の処遇改善加算分も混じっており、加算分を除けば減収となる。

さらに訪問介護のうち単価の高い「身体介護」の利用者を受けないと事業継続が難しくなった。ヘルパーが高齢化し、「身体介護」の利用者に十分に対応できない事業所は閉鎖に追い込まれる。

一方、利用者側も制度としての「生活援助」(掃除、洗濯など)を受けられず、自費で民間サービスを使うしかなくなる。門脇さんは「生活援助の利用者を受け入れ、早い段階から専門職が介入できれば悪化を防げるのに」と指摘する。

法人の訪問介護を受けている要介護2の根岸正昭さん(80)は当初は寝たきりで衰弱していたが、今は補助があれば歩けるようになった。根岸さんは「生活の70%はヘルパーに支援してもらっている。弱っている時にヘルパーが励まし、適切な支援をしてくれたから今がある。感謝している」。

地域で介護が必要な高齢者の暮らしを守り、支えている訪問介護の役割を正当に評価した報酬でなければならない。