心を動かす作業の力〈高齢者のリハビリ 95回〉

2024年0614 福祉新聞編集部

私は11年前、作業中心のデイサービスをつくりました。リハビリ(訓練)は手段であり目的ではないということ、疾患や障害、年齢に関係なく「作業ができる」ことを健康と捉える作業療法の健康観を基本に、利用者には「『できる』を探す、生かす、増やす」目的で利用してもらっています。

作業に焦点を当てる

今の高齢者は学歴も高く、趣味や特技を持ち、いろいろな分野で活躍された技術者や専門家がいます。高齢者のウェルビーイングのため、個人にとって意味を持つ作業を活用しない手はありません。

マジックや短歌を披露したり、お茶をたてたり、野菜づくりを職員に教えたり、門松を造ったりする人もいます。薬の講義(元薬剤師)、地元の偉人の紹介(元区長)、入浴後の女性の髪のブロー(元美容師)など、さまざまな作業ができます。また、自宅で作ったもののお蔵入りになっていた掛け軸を飾ってあげます。

一方、特技や趣味のない高齢者には、絵手紙、貼り絵、パッチワーク、刺しゅう、木目込みなどを用意し、自分で選択した作業に参加してもらいます。これらの作業をインスタグラムで発信したところ、多くの反響がありました。中でも絵手紙がポルトガルの芸術家の目に留まり、当地の展覧会に招待され、100枚の絵手紙が海を渡りました。

四つの動機

高齢者のケアにおいては、苦難のリハビリから開放し、本人の心を動かすことから始まります。私は高齢者の活動と参加を支援する上で、次の四つの動機を重視しています。

(1)楽しい(面白い)(2)自信がある(3)必要とされる(4)お金になる――ことです。(1)~(3)は内的動機(4)は外的動機と言えるかもしれません。

先に挙げた作業は(1)~(3)のどれかに相当します。楽しいことは継続します。ハンガリー出身の心理学者で「楽しむということ」の著者、チクセントミハイは、やさしすぎず、難しすぎず、本人の能力より少しだけ高い活動が楽しさ(フロー)を引き出すと述べています。

また、過去にやったものであれば自信をもって取り組み、褒められるとまたやってみようという気になります。自分が誰かの役に立っているという有能感は生きる力になります。作業の準備や後片付けなどの役割を持ってもらい、お客さま扱いしないことです。

お金は強い力があります。介護においても有償ボランティアが認められ、洗車を取り入れている事例や地元の材木を活用した「杓文字づくり」、手作りの工芸品を販売しているところがあります。そこの高齢者は小遣い稼ぎに行く、という感覚です。認知症の人にもできる作業を創出し、今後、私のデイサービスでも挑戦したいと考えています。

パラダイム転換

病院と同様のリハビリを求められることが多いのですが、ケアの現場は治療優先の病院とは目的が異なります。元気が出る作業は何でも取り入れる柔軟な姿勢が必要です。大事にするよりも頼りにする、仕事や学びに来る、完成度の高いものを目指す、プチ就労や卒業もある、というケアのパラダイム転換が必要と考えています。

筆者=近藤敏 令和健康科学大学 リハビリテーション学部 作業療法学科長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長