胃ろう建造者の嚥下訓練〈高齢者のリハビリ 90回〉

2024年0510 福祉新聞編集部

重症心身障害児者の施設に勤務する理学療法士(PT)です。多くの人が摂食嚥下機能に問題があります。繰り返し起こる誤嚥性肺炎により胃ろうを造設する利用者も少なくありません。

当施設では、医師、看護師、管理栄養士、PT、作業療法士(OT)による摂食嚥下のチームアプローチに取り組んでいます。今回は、胃ろう造設者に対する摂食嚥下訓練の取り組みを紹介します。

胃ろう造設者は経口から摂取する機会を失うことで、唾液の分泌量が減り、口腔内の自浄作用が低下し、口腔内に雑菌が増殖することがあります。唾液を就寝中などに誤嚥し、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。

さらに医療的処置により肺炎が改善しても、嚥下に対し何もアプローチしない場合は「誤嚥性肺炎の負のスパイラル」が続いてしまいます。

当施設では「負のスパイラル」を断ち切るため、胃ろう造設者の摂食嚥下アプローチを積極的に行っています。口腔内を清潔に保つための口腔ケアはもちろんのこと、多職種による口腔機能および嚥下評価を行い、唾液分泌を促すための間接嚥下訓練や、咀嚼や嚥下を促進するための直接嚥下訓練をしています。直接嚥下訓練では評価に基づき適切な食形態と摂取量、適切な姿勢を検討し実施します。訓練により改善がみられた二つの事例を紹介します。

誤嚥性肺炎の「負のスパイラル」を断ち切った事例

Aさん40歳男性、意思疎通が難しい胃ろう造設後の脳性まひの人です。当施設入院以前は誤嚥性肺炎を6カ月で3回、入院後も2年で2回繰り返していました。38度以上の熱発は1カ月に1回以上あり、口腔内は乾燥し、衛生状態を保つのが難しい状態でした。摂食嚥下訓練開始後、約2年間で38度以上の熱発回数は減少し、誤嚥性肺炎による転院もなくなりました。

大きな変化は、唾液量が増え、口腔内が常に湿潤し衛生状態を保ちやすくなった点です。口腔機能との相乗効果で嚥下機能も向上し誤嚥が減少したと思われます。

誤嚥性肺炎予防から「経口摂取」を取り戻した事例

Bさんは40歳の代男性。意思疎通は何とか可能な胃ろう造設後の脳性まひの人です。胃ろう造設後、数年経過して当施設に入院しました。当初は、気切孔からの粘稠痰の噴出が多くみられていました。

誤嚥性肺炎予防のための摂食嚥下訓練開始から2年程度経過し、経口摂取が可能となりました。今では必要摂取カロリーの半分程度を経口から摂取しています。「食べる楽しみ」を取り戻し、笑顔が多くなりました。

この人は、摂食嚥下機能だけでなく、運動療法や呼吸訓練を実施して、体力が向上したことも良い結果に結びついたものと思います。長く胃ろうをしていても、経口摂取の可能性があることを教えてくれました。

食べることは「楽しみ」でもあり、人との関わりや会話が促進され精神的にも満たされます。たとえ胃ろう造設されていても、食べる楽しみを味わってもらえるよう、少しでも生活に潤いが出るよう今後も摂食嚥下の取り組みを続けていきたいと思います。

筆者=岡本慎平 社会福祉法人あきの会 虹の家 理学療法士

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長