「心が動けば体も動く」 就労支援の効果 〈高齢者のリハビリ 89回〉

2024年0426 福祉新聞編集部

障害者就労継続支援をご存じですか?身体、精神、知的、発達、高次脳機能などの障害者が支援を受けながら働く、いわゆる福祉就労の施設です。

就労継続支援にはA型とB型があります。A型は雇用型で、働いた時間は最低賃金以上が支払われます。1日4時間で週5日働くと月8万円程度の賃金を得ることができます。B型は非雇用型で、作業の売り上げに応じた工賃が支払われます。工賃は全国平均で1万7000円程度です。

私は就労継続支援事業所で働く作業療法士です。病院とは異なり、直接リハビリをするわけではありません。主な役割は、個々の能力を評価し適切な作業を選択すること、作業がより良くできるよう環境を整備すること、利用者の思いに寄り添い、目標を定めスキルアップの道筋を立てることです。家族や主治医、行政などと連携し、生活の困難を解決することも仕事です。

就労支援の意義

就労継続支援事業所は、脳卒中による片まひや高次脳機能障害のある40~60歳代までの人も多く利用しています。

脳出血で左片まひと半側空間無視の障害があるAさんを紹介します。回復期リハビリテーション病院を退院し、リハビリテーションセンターで2年間訓練を受けた後、当施設を利用しました。利用当初は、注意散漫で歩行も見守りが欠かせず、半側空間無視のため、販売をしていても左のコインを見落としていました。

 

片手でプリン作りに取り組むAさん

 

しかし、人と関わることが大好きで、働くことにより生活意欲や身体機能が向上し、今では1人で電車通勤ができるようになりました。「心が動けば体も動く」。まさしく、モチベーションを上げることが大切です。

働く意欲と生きる楽しさ

就労支援では「その人の働く意味」を共有することが大切です。特別支援学校を卒業したばかりの人は「何のために働くのか」など、働く意味を明確に持てないまま働き始めることも少なくありません。

働いて自ら収入を得て、そのお金の管理を経験していくことで働く意味が生まれ、野球観戦や欲しい物を買うため、最終的には自ら生活していくことに結び付けられるようになります。働く意味を明確にし、働く意欲を向上していくことが大切な支援だと思います。

紹介したAさんは、働くことで収入を得て、そのお金で休みの日は仲間と楽しく居酒屋に集まっています。本人は「自分で働いたお金なので気兼ねなく飲みに行けるし、それが今の一番の楽しみ」とのこと。また、仕事のため、毎週ウォーキングを欠かさないそうです。

働くことはその人にとっての人生の彩りとなり、多くの経験をもたらし、人生を豊かにするもので、生活の質が向上につながると思います。

 

筆者=牛尾拓郎 社会福祉法人あきの会 みかんの樹 作業療法士

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長