食事形態の落とし穴 硬さ、凝集性、付着性に配慮〈高齢者のリハビリ 第87回〉

2024年0412 福祉新聞編集部

むせたから食事を刻み食にしよう、おかゆにしよう、水分のとろみを強くしよう。それがかえって誤嚥や窒息などの有害事象発生リスクになってしまうことがあります。今回は適切な食事形態について紹介します。

 

料理をただ刻んだだけの「刻み食」は、飲み込み(嚥下)や歯ですりつぶす(咀嚼)能力が低下している人や、舌の動きが悪く食材を嚥下しやすい形にまとめること(食塊形成)がうまくできない人には、食材が口の中でばらけやすく、誤って気管に入る可能性が高まり、肺炎や窒息のリスクとなります。

 

嚥下能力が低下した人の食事は、食材の硬さ・凝集性・付着性に配慮する必要があります。次にそれぞれを示します。

 

硬さ=奥歯がない人、義歯を使用している人、かむ力が弱い人は硬い物がかみ切れず、そのまま飲み込んでしまい、窒息する可能性があります。煮込む・蒸す、繊維を断ち切る、たんぱく質を分解する酵素を使うなどで、軟らかくします。

 

凝集性=まとまりやすさのこと。そぼろなどバラバラになりやすい物や、パンなどパサパサな物は、口の中でまとまりにくい。あんかけや油脂、適度な水分を含ませてまとまりやすくします。

 

付着性=くっつきやすさのこと。のりや葉物野菜などのペラペラな物、餅などのべたつきが強い物などは、口の中や喉に張り付きやすく危険です。べたつきの少ない商品を選ぶといい。

 

つまり刻み食は軟らかく調理した食材を刻み、とろみあんかけなどでまとめる必要があります。

 

例えば、硬いせんべいを細かく割っただけでは飲み込みやすくはありません。お茶などに浸して食べることで軟らかくパサつかず食べやすくなります。

 

では、おかゆは軟らかく、まとまりやすいので安全でしょうか。

 

食事が進むにつれ、おかゆが水っぽくなることがあります。これを離水といい、離水したおかゆは凝集性が低く危険です。

 

離水の原因は唾液に含まれるアミラーゼという酵素がでんぷんによるおかゆのとろみを分解して、さらさらにしてしまうこと、おかずや梅干しなどの塩分による浸透圧で水分が出てきてしまうことです。酵素入りゲル化剤を使用して作ることで、離水を少なくすることができます。

 

導入が難しい場合は、おかゆを小皿に取り分ける、おかず類を混ぜないなどの工夫で離水しにくくすることができます。

 

水分にとろみをつけている人も多いと思います。嚥下機能が低下すると、嚥下のタイミングが遅れ、サラサラの液体でむせてしまうことがあります。水分にとろみ剤でとろみをつけると、喉をゆっくりと通過するため、嚥下のタイミングを合わせることができます。

 

とろみは濃いほど安全というわけではなく、濃すぎるとろみは付着性が強く、かえって危険な場合があるため、適切な濃度のとろみ付けが必要です。

 

また、とろみ剤によるダマは窒息のリスクになり、とろみ剤が溶け切っていない分、とろみが薄くなってしまうので、しっかりととろみ剤を溶かすことが大切です。

 

このように、安全だと思っている食事形態にも意外な盲点があります。適切な食事形態を理解することで、より安全に食事してもらうことができます。

 

筆者=引馬匡美 原宿リハビリテーション病院 栄養科 副主任

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長