リハビリテーション薬剤〈高齢者のリハビリ 85回〉
2024年03月29日 福祉新聞編集部リハビリテーション薬剤には、「リハから見た薬剤」や「薬剤から見たリハ」があり、フレイル高齢者や障害者の機能、活動、参加、生活の質(QOL)を最大限高めることを目的としています。
リハから見た薬剤とは、国際生活機能分類(ICF)=図=による機能、活動、参加の評価およびリハでの訓練内容を考慮した薬物療法を行うことです。例えば、機能障害、活動制限、参加制約に対する薬物療法の実施や、薬剤の副作用で機能障害、活動制限、参加制約を認める場合の薬剤調整はリハから見た薬剤です。
薬剤から見たリハとは、薬物治療の内容を考慮した上でリハを行うことです。例えば、薬物治療で機能、活動、参加が悪化することがあります。しかし、治療のために薬剤の継続が必要不可欠な場合、副作用を考慮した上でリハを実施したり、どのようなリハを行うかを検討したりすることが薬剤から見たリハです。
薬剤は機能、活動、参加と相互に影響し合う関係にあります。機能障害を治療するための薬剤はありますが、活動、参加をより高めるための薬剤はあまり存在しません。一方で、薬剤が機能、活動、参加を悪化させていることは珍しくありません。従来、リハと薬剤は別々に対応することが多いですが、超高齢化社会のわが国ではフレイル高齢者や障害者が増加して、リハの効果を最大限発揮することがより求められるため、リハと薬剤を一緒に考えることが重要になっています。
リハにおける薬の影響
また「ポリファーマシー」(多剤併用による有害事象がある状態)のためにフレイル高齢者や障害者の機能、活動、参加、QOLが低下する場合があります。
最近の研究では、回復期リハ病棟に入院中の慢性腎臓病(CKD)のある脳卒中患者の33%に、服用している薬剤の種類が6剤以上あるポリファーマシーを認めました。このポリファーマシー群では、基本的日常生活活動(BADL)の1日当たりの改善度である機能的自立度評価表(FIM)効率が低下していました。
また、回復期リハ病棟に入院中の高齢脳卒中患者で、Beers基準(高齢者において潜在的に不適切な医薬品の使用を認識するための基準)による不適切薬剤(PIMs)を当てはめると、BADLの運動項目のFIM利得(入院中の改善度)が低下しました。
さらに抗精神病薬、抗うつ薬、第一世代抗ヒスタミン薬といった抗コリン作用を有する薬剤の作用は、入院時より退院時で増加していました。
そのため、リハの効果を最大限発揮するためには、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士による機能訓練や、管理栄養士による栄養管理だけでは不十分であり、リハビリテーション薬剤の考え方が重要です。
参考文献=若林秀隆ほか「機能・活動・参加とQOLを高めるリハビリテーション薬剤」じほう、2019
筆者=原口将之 五反田リハビリテーション病院 薬剤科 係長
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長