認知症の人への対応~相手に寄り添うために〈高齢者のリハビリ 80回〉

2024年0223 福祉新聞編集部

認知症の人に声を掛けた際に、介護者の存在を認識できていなかったり、視線が合わなかったりといった経験をしたことはないでしょうか。認知症の人の多くは高齢者です。加齢に伴う聴力や視力の低下に加え、認知症によって理解力や判断力の低下などが加わります。モノ(者・物)などの認識が難しくなることから、視野も狭くなるといわれています。

視野に入り介助する

認知症の人に認識してもらうためには「視線を合わせる」ことを意識してください。アイコンタクトです。適度な距離をとり、相手と視線の高さを合わせて、黒目を意識しながら見つめてみてください。視線が合ったら、ほほ笑みながらあいさつや声掛けをすると効果的です。視線が合わない状況で介助やタッチングは相手に不安や恐怖を与えてしまいます。視線が合わない状況では、認識ができていないからです。

 

視線を合わせることを意識する

 

介助するときも相手の視線を確認することは重要です。トイレ介助などの場面でも「この手すりを持ってください」と伝えたときの相手の視線が、持ってほしい手すりに向けられているかを確認します。手すりに視線が向けられていない場合は、介助者が相手と視線を合わせ、ジェスチャーや言葉を添えて視線を誘導すると視線が手すりに向きやすくなります。

相手のペースを守る

毎日提供している援助でも、記憶力や判断力の低下している場合は、今から何が行われるのかを理解できない場合もあります。介助者の言葉を判断するまでに時間を要するため、私は3秒を意識しています。その人からの返事のあと、3秒待ちます。また、思考の混乱になるため、一つの文章に多くの情報を詰め込むことを避けています。相手が認識できているか、了承を得られているかを確認することは重要なポイントです。了承を得たつもりでも認知症の人のペースに合っていなければ、不安や恐怖を与えています。

 

一度感じた恐怖などの不快な経験は記憶に残るといわれています。介助者はその人にとっての不快を減らし、心地よい対応を心掛けることが信頼関係の第一歩になるのではないでしょうか。

 

認知症の人にとって、心地よいと思う声掛けや聞こえやすい声のトーンなどがあります。身体機能に応じた上で心地よいと思う対応を考えることは、その人の穏やかな時間を延長することになります。私は同僚と認知症の人の世界について話し合うことを意識しています。さまざまな情報を共有することで良い対応が見つかることもあります。認知症の人の世界を知ろうとすることは、その人らしさに寄り添うことにつながると考えています。

 

施設の利用者も高齢者が多く、対応に苦慮することもあると思います。その人の視野に入り、視線を確認し、了承を得て、ペースを守ることで、ほほ笑みや笑顔のある時間をつくっていきたいですね。これからも認知症の人の世界に応じた介入をすることでお互いの信頼関係を築いていきましょう。

 

筆者 寺園茜 五反田リハビリテーション病院 認知症看護認定看護師

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長