トイレで排泄するスッキリ感〈高齢者のリハビリ 78回〉

2024年0209 福祉新聞編集部

排せつは、毎日繰り返し行われる日常的な行為で、本来であれば、プライバシーが確保されたトイレで1人ゆっくりと行うものです。臥床したままでは、解剖学的にもいきんで踏ん張ることができず、思うように排尿・排便ができないため、スッキリと感じることができません。排せつはデリケートな行為で、おむつでの排せつに精神的、物理的な苦痛を感じる人も多くいます。介助される側の気持ちに配慮したケアを心掛けながら、トイレでの排せつを促すことが大切です。

トイレでの成功体験

私自身がトイレで排せつする大切さを感じた一例を紹介します。

 

入院中のAさんは、脳卒中の影響でまひがあるため、ほとんどすべての動作に介助が必要でした。リハビリでトイレに何とか移動できるまでになったのですが、トイレ排せつが間に合わずに、本人の希望でおむつでの排せつを続けていました。何とかトイレに誘導しようとしますが、「疲れるからこのままでいいよ。どうせ失敗するからおむつでいい」と、トイレに行くことを諦めていました。

 

スタッフ間でトイレへの誘導方法を話し合っている中で、昼食後のおむつ確認時には必ず排尿があるとの情報があり、まずは昼食後のトイレ誘導を始めました。初めはなかなかトイレ排せつが成功せず、失敗を繰り返しましたが、1度成功したことをみんなで喜び合ったことで、Aさんにも笑顔が見られました。

 

当初は2人の介助者が必要でしたが、徐々に1人介助になり、昼食後以外にもトイレ排せつする回数が増えていき、Aさん自ら「トイレに行きたい」と前向きな発言が聞かれるようになりました。

 

この事例のように排せつを失敗したことに大きなショックを感じてしまう場合も少なくないので、トイレ誘導のタイミングをチームで共有し、必要以上にせかさず、トイレで排せつ介助を行うことが大切です。中には介助者の手を煩わせないようにと、トイレに行きたくても我慢している人もいるので、相手の思いに寄り添った声掛けも必要と思います。

尊厳を守る

トイレ動作はいくつもの過程によって成立します。立位や座位保持だけではなく、ズボンや下着の上げ下げ、トイレットペーパーに手を伸ばす、おしりを拭くなど、一連の動作に一つでも不安なところがあるとトイレでの排せつが難しくなります。

 

残存機能に応じて、可能な限り自分でやってもらうことが生活機能の維持にもつながります。まずは、おむつからリハビリパンツに替える、トイレに移動する、失敗したとしてもトイレでパットを交換するなど、ベッドから離れて排せつ行為をするよう勧めることが身体的、心理的また社会的にも大切です。

 

排せつはその人の尊厳に大きく関わる生活行為です。自信を失うような言動、態度(しぐさ・表情)に留意し尊厳を守っていきましょう。介助量が多い、失敗が多いからとベッド上での排せつのままにせず、ベッドから離れスッキリ排せつできるように、その人に合った介助をリハビリスタッフと模索していきたいですね。

 

筆者=畑中朋 赤羽リハビリテーション病院 回復期リハビリテーション看護師

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長