口から食べる効果~その人らしい生活を考える〈高齢者のリハビリ 77回〉

2024年0202 福祉新聞編集部

皆さんは「食べる」ことにどんな意義を感じていますか? まず生きるために必要な栄養源であることが思い浮かぶと思います。それだけでなく、口から食べることは、おいしいと心が満たされたり、誰かと食べることで楽しい気持ちになれたり、食事の場が人との交流の場となり、精神的、社会的な側面からも重要であると言えます。

 

高齢者は加齢に伴う影響により、歯牙の欠損や唾液の減少、舌や喉頭の筋力低下など、さまざまな理由から嚥下機能が低下します。加えて、既往症を抱えている人も多く、脳卒中やパーキンソン病などは嚥下機能に影響を及ぼしている可能性が高いです。

 

ひとたび誤嚥性肺炎を起こすと経口摂取が禁止となり、食べる器官を動かさないことで廃用性変化が起こり、さらに嚥下機能が悪化することも考えられます。

 

私は食べることが大好きなので、食べることを支えたいと思い、摂食嚥下障害看護認定看護師を取得しました。日々悩みながら患者と関わっていますが、大切にしていることは、食べることが難しくなった原因を考え、強みを生かすことと。嚥下機能だけに着目するのではなく、食欲や全身状態、口腔状態、姿勢、栄養状態など多方面からアプローチすることです。自分だけでは難しいことも多いので多職種の協力を得ながら進めます。

 

ここで、ある患者との関わりを紹介します。その患者は誤嚥性肺炎発症後に禁食となり、嚥下訓練は行っていたものの、ゼリーの摂取も難しい状況で、経口摂取の再開は難しいと説明を受けていました。リハビリテーション病院に転院した際に「もうダメだと分かっているんだ」と経口摂取の再開を諦めており、常にイライラしている様子で、気難しい印象がありました。

 

この人の強みは認知機能が保たれていたため、本人と目標を共有できることと考えました。「20分でゼリー半分摂取できる」「2週間で体重が1キログラム増える」など小さな目標を立てました。一方、弱みは栄養状態が悪いことなので、管理栄養士と協働して経鼻胃管からの投与エネルギー量を見直し、体重の変化を本人と共有しながら関わりました。また、嚥下関連筋の筋力低下や廃用も大きな問題だったため、言語聴覚士が食物を使う訓練と並行して、病棟では看護師による喉頭を鍛える簡単な訓練を計画し、本人の体調に合わせ実施しました。

 

これらの関わりにより徐々に摂取できるものが増え、「茶わん蒸しが食べられたよ」などと報告をしてくれるようになり、笑顔が増え、穏やかになっていきました。少しでも口から食べることは、栄養源である以上に、精神的な意義が大きいと再認識した患者との関わりでした。

 

高齢者施設では、言語聴覚士など専門職の介入が難しいことも多いと思います。しかし、口から食べることを諦めるのではなく、関わることのできる職種の智恵を持ち寄り多方面からアプローチすることで、少しでも食べる喜びを再び得ることができる高齢者が増えるとうれしいです。

 

筆者=石田美奈子 千葉みなとリハビリテーション病院 摂食嚥下障害看護認定看護師

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長