認知症高齢者の芸術活動 〈高齢者のリハビリ 74回〉
2023年12月29日 福祉新聞編集部私は以前、認知症対応型デイサービスの「一般社団法人巨樹の会りらいふ」に着任していました。そこでは利用者に対して認知症予防や認知症進行を遅らせることに特化した活動を提供しており、スタッフは「ゆっくり、一緒に、楽しく」をコンセプトに掲げて利用者と関わっています。
活動の一つとして実施している芸術活動に焦点を絞り、コンセプトにある「楽しく」に着目したアンケートを実施しました。それをもとに活動の様子を振り返りながら、芸術活動が認知症高齢者に及ぼす影響と対応方法を考察してみました。
アンケートは、りらいふ利用者73人を対象に、自身が取り組んでいる芸術活動をどう感じているかを尋ねました。結果をグラフに示します。
現在行っている芸術活動は大きく分類すると、参加型と創作活動に分けられます。
アンケートの結果から参加型の活動の方がより多くの利用者が好む傾向にあることが分かりました。参加型の活動は誰でも気楽に取り組むことができる一方、創作活動は手先の器用さや理解力が求められることが、このような結果につながったと推察します。
また、創作活動は自身の作業に集中するため、コンセプトの「一緒に」という感覚が得られにくいのですが、参加型の活動は周囲と調和を合わせながら行うため「一緒に」という感覚が得られ、それが利用者の安心につながり、より「楽しい」と感じられるのではと思われます。
ストレスなく楽しむということは認知症の改善や周辺症状の軽減に有効ですが、実際に利用者が活動に対して主体的に取り組んでこそ大きな効果が期待できます。参加型の活動は形あるものが出来上がっていくものではないため、目的意識を持てずに周囲に紛れて、その場の雰囲気だけを感じてやり過ごす傾向になりがちであり、本来の目的である脳の活性化を十分に図ることができない状況になる場合があります。利用者がそのような状況に陥らないよう、活動中に利用者の肩に手を触れて一緒に歌ったり、近くでアイコンタクトをしながら体を動かしたりするサポートが必要だと言えます。
一方、創作活動は万人受けするものではありませんが、物作りの工程を自身の目で見て手で触れることができるため、より主体的に取り組むことができます。そして、作品が完成したときの達成感は利用者の心理に非常に良い影響を与えます。完成した作品を自宅に持ち帰ることで家族に褒められたり、コミュニケーションが増え、参加型の活動よりも良い影響を与えていると考えます。
しかし活動中は利用者が「できない」「分からない」という劣等感を抱かせないよう、頻繁にプラスの声掛けをしたり、場合によっては一緒に作成する必要があります。
いずれの活動においても利用者に関わる際は、活動が利用者にどんな効果があるのかを把握し、そして利用者がどのように参加して取り組んでいるのかをよく観察しながら対応していく必要があると考えます。
筆者=大木孝介 明生リハビリテーション病院 副主任
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長