警戒続く高齢施設 3度のクラスターも経験(札幌慈啓会)

2023年1121 福祉新聞編集部
安全なグリーンゾーン(床の見える側)と感染リスクの高いレッドゾーンに仕切られた3階廊下=昨年8月、札幌慈啓会提供

新型コロナウイルスの勢いは下火と言われる。しかし、身体の弱い高齢者の集まる医療や介護の施設では警戒の手を緩めていない。この9月、経営する老人保健施設(垣内英樹施設長、定員90人)がクラスター(感染者集団)に見舞われた札幌市の社会福祉法人札幌慈啓会(太田眞琴理事長)でその苦労ぶりを聞いた。

 

感染したのは3、4階(鉄筋4階建て)の2フロアを占める療養棟のうち3階(50床)の入所者27人。9月7~17日に発熱、せきなどを発症した。重症化し、2日がかりで病院を探した末、入院先で亡くなった80代男性(コロナ発症後の基礎疾患の悪化)以外は、10月1日の健康観察期間終了まで全員、施設内療養で回復した。

 

「感染ルートは不明。昨年の2回に続き3度目のクラスターだが、職員に発症者はいなかった。でも、面会は予約制です」と副施設長の道林松美さん(社会福祉士)。

 

平時から看護や介護などスタッフは各階別々だ。ゾーニングした3階では完全防護服姿(キャップ、ガウン、アイガード、N95マスクなど)で介助にあたり、マスクに手洗いだけの4階と遮断され〝別世界〟。治療薬はいくつか出回ってきたが、「施設長(医師)は24時間オンコールで大変だった」と振り返る。

 

医師と看護師が配置されている老健は〝準医療機関〟扱い。しかし、病院のような医療体制はない。全国老人保健施設協会の東憲太郎会長(三重県津市、老健「いこいの森」施設長)は「第1波(2020年春)では北海道の老健へ私の所から介護職員を応援派遣した。死者も出て悲惨な状況だった」と言う。さらに「最近はウイルスの感染力こそ強いものの弱毒化し、重症化しなくなった。感染は防ぎようがなく、インフルエンザに効くような薬もコロナにはまだないが、現場が対応に慣れてきた」とパニックを避け、冷静な対処を呼び掛ける。

 

一方、第82回日本公衆衛生学会総会(10月31日~11月2日、茨城県つくば市)のフォーラムでは「虚弱高齢者が集団で暮らす施設や病院の感染対応は今後も問題になる。ワクチンが普及してもひどいことになる」(全国保健所長会役員)との声が上がった。

 

過去最多の死者数となった第8波(22年11月~23年2月)は高齢者の死亡が目立ったが、流行は目下いくぶん沈静化している。それでも面会制限など慎重に構える施設は少なくない。