認知症の人を理解する〈高齢者のリハビリ 62回〉

2023年0929 福祉新聞編集部

認知症の人と関わる中で、大前提は「認知症の人が見ている世界」と「本人以外の人が見えている世界」が違うということを常に念頭に置いておくことではないでしょうか? そのためには私たちが認知症を正しく知ろうとする姿勢が必要です。

 

認知症状の一つに見当識障害が挙げられます。前述した両者の違いにはこの障害が大きく影響しています。見当識障害とは自分が存在している場所や日付、時間の把握が難しいことです。これらの障害がある人は日常生活を送る中、自身の置かれている状況が分からないため、「ここはどこなんだろう?」「なんで私はここにいるの?」「周りの人たちは誰?」というように、大きな不安を抱えることになります。

 

さらに、その状況で自分以外の相手が要求してくること(例=ここに座っていてください)に対して冷静な判断はできず、混乱へとつながります。少し振り返ってみてください。自身が同様の状況に置かれた場合、果たして冷静な判断が下せるでしょうか。

 

認知症の代表的な症状である記憶障害。その中でも比較的短い期間の記憶のことを短期記憶といいます。保持期間は「数十秒から数時間程度」ですが、これを保てない状態を短期記憶障害と言います。短期記憶障害の人の心理状態として、平時からたくさんの不安を抱えています。「なかなか覚えられない」「迷惑を掛けているんじゃないだろうか」「また怒らせてしまうかも」といった感情は、その人の中で整理しなければならない情報としてどんどん増えていきます。

 

一方で、認知症でない人から見える世界では、そうした本人の状況は見えづらく「また忘れてる!」「何回も同じことを!」という怒りの感情を向けてしまったり、強く注意を促してしまったりすることにつながる場面もみられます。認知症の人はそのような状況に置かれると「また怒らせてしまった」「迷惑を掛けてしまった」などといった思いがさらに募ります。つまり「不安」が積み重なっていくのです。その心に寄り添うことが何よりも必要であろうと思います。

 

まずは「安心を届けること」が重要です。といっても一体どういうことなのでしょう。それは相手にとって「心地よい空間(時間)を提供すること」ではないでしょうか。そのためには「認知症を知る」だけでは十分とは言えず、同時に「認知症を患っているその人」を知ろうとすることが大切でしょう。要素として、その人の心理状態、生活歴、価値観、性格などを整理しておく作業が必要で、できる限りその人を取り巻く人たち同士での共有が求められます。日ごろのミーティングでもこれらの要素にテーマを絞って共有することも良いのではないでしょうか。そのほかの対応ポイントとして、笑顔で相手の話を聞きながら、どんな場所で、どんな状況に置かれているかを想像することも重要です。

 

症状は似通っていても、その人にとって適切な対応となるかはそれぞれです。できる限り相手のことを共有しお互いに「心地よい」空間づくりをしていきたいですね。

 

筆者=波多野崇 下関リハビリテーション病院 医療技術部長兼リハ課長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長