フレイルとその予防 抗重力筋の維持・改善を〈高齢者のリハビリ 60回〉
2023年09月15日 福祉新聞編集部フレイル(frailty)は高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する抵抗力が減少し、生活機能障害、要介護状態、死亡などに陥りやすい状態を指します。
フレイルは筋力の低下、バランスの低下、転倒といった身体的問題のみならず、認知機能の障害や、うつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む広い概念です。
人は必ず年を取り、フレイルに陥ることは避けられないことですが、可能な限りフレイルから要介護に進む期間を短くし、生き生きと生きる期間(健康寿命)を長くしたいものです。
ライフスタイル
健常な状態から突然、要介護状態に移行することは、脳卒中などの患者にみられることで、疾病予防は非常に大切です。健常な人であっても年齢を増していく段階で、健常と要介護との間で徐々に虚弱していく段階(フレイル)があります。栄養―運動―疾病予防は生活維持の要の部分です。歯の健康を維持して、より良い食生活を維持すること、運動の要素を生活の中に取り入れて活動的な日々を送ること、人との出会いに感謝し、笑いや感動を絶やさないことなど、日ごろの生活の中にその人にふさわしいフレイル予防策を見つけていくことが大切です。
予防の必要性
抗重力筋=図=は立位や歩行で無意識に働いている筋肉で、姿勢の維持に深く関わっています。これらの筋が弱くなると活動性は低下します。数日の臥床でも抗力筋の筋力低下がみられ、お年寄りにはそれがより顕著です。運動量の低下や栄養状態の悪化(特にタンパク質不足)では下肢筋力の低下、特に大腿全面の筋(腸腰筋・大腿四頭筋・前脛骨筋)が低下し、立ち上がりの困難さや歩行時のつまずきなどが早期から出現します。
抗重力筋の維持・改善
抗重力筋の筋力の維持・改善に向けては、散歩に代表される有酸素運動に加えて、重錘(おもり)やゴムバンドなどを使った抵抗運動が必要です。スクワットや階段昇降などは重力に抗して自分の身体を上下する運動でいつでも、どこでもできる抵抗運動です。
有酸素運動+抵抗運動で筋力は維持・改善するにしても、安定した動作で活動性が維持されるためにバランスの能力を高める必要があります。フレイルを予防し元気な身体を作るには、有酸素運動+抵抗運動+バランス運動をセットとして、そこに十分な栄養摂取が加わる必要があります。
次回は自宅でできるフレイル予防に向けた筋力評価と運動法について説明します。
筆者=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長