介護の先に笑顔がある〈高齢者のリハビリ 59回〉

2023年0908 福祉新聞編集部

 「介護してもらわなければならなくなってしまった」という、つらい思いをしている高齢者に、少しでも元気を取り戻して、その人らしく過ごしてほしいと誰しも思っているでしょう。病気やケガなどで心身機能が低下したとき、病院でリハビリを受けて、できるだけ機能を回復して自宅や施設に帰ります。急性期や回復期のリハビリが済んだ後は、生活の場で暮らし続けることがその機能を維持し、さらに活動性を向上させることにつながります。入院治療は必要なくとも体調を崩して安静にする時間が増えると、高齢者は短期間で心身機能が低下します。毎日の生活そのものがリハビリになっているからです。生活の中に楽しみや目標を見つけられれば体は動き出し、体が動き出すと気持ちも前向きになり、良い生活のリズムが生まれます。

 

 その原動力を引き出すのは、日々生活に関わっている家族、友人や仕事として関わっている医療・介護スタッフではないでしょうか。中でも介護の仕事は、高齢者の日々の生活を支えるために重要な役割を果たしています。私たちが関わることで目の前のお年寄りが元気になる、笑顔になる。すると私たちも元気をもらえて良い関係が生まれてきます。

 

 お年寄りは「まだまだ大丈夫」と思う気持ちと「こんなことも……」という思いが折り重なり、葛藤を抱えながら頑張っているのではないかと思います。

 

 身近なところでその人の生活に関わる介護の仕事は、親身になりそのつらさを共感できると同時に、冷静に考え行動することができる立場にあります。冷静に判断しながらより良い方法を提案し、その人の思いに寄り添うことができると思います。一緒に考え、一緒に前を向いてくれる人がいれば元気が出ます。少しでも前に進めれば笑顔になれます。私たちの関わりの先に少しでも笑顔が増えるよう一緒に前を向いていきたいものです。

 

 この連載で多くのことを学んできました。リハビリの知識と技術は、私たちの生活に応用できることがたくさんあります。生活の中に応用してこそリハビリだと思います。生活の中でのちょっとした変化は、介護に関わる現場の皆さんが一番分かります。

 

 「私の方を向いてくれている」「一緒に考えてくれる」「励ましてくれる」。そういうスタッフが身近にいることでお年寄りは元気になれます。朝、着替えてさっぱりすることも、ベッドから離れて食事をすることも。レクリエーションに参加することも、好きな音楽を聴くことも、食堂まで歩くことも、庭を散歩することも。思い出話をすることもすべてリハビリです。

 

 そして、日常生活で行っている活動に加えて意識的に運動を取り入れることは、自ら動こうとするお年寄りの意欲を後押しすることにつながります。私たちが持っている心身機能を維持・向上させることは活気ある生活をするためにとても大切なことです。一人ひとりが元気になれるヒントはその人の生活の中にあります。

 

 介護に関わる私たちが、前向きに関わっていくことで目の前のお年寄りは元気になれます。笑顔を取り戻します。さまざまな関わりの中でより専門的な対応が必要なときは、医師や看護師、リハビリスタッフなどに相談し一緒に考えていきましょう。

 

筆者=江連素実 アビリティーズ・ケアネット リハビリセンター長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

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