患者の状態に合った杖を〈高齢者のリハビリ〉

2023年0623 福祉新聞編集部

 皆さんは患者の状態に合った杖つえの使い方や選び方をご存じですか?

 

 杖は弱くなっている足とは反対の手でつくのが基本です。持ちやすいからという理由で利き手で持つ人がいますが、持つ側を間違えると、身体のバランスを崩し、痛みを強めることにもなります。また、杖は長すぎても短かすぎても困ります。安定した生活を維持し、健康寿命を実現するために、杖の選定とフィッティングは重要です。

杖の種類

 (1)T字杖

 

 T字杖を使うためには、ある程度バランスを保って歩くことができ、杖をついた状態で片脚立ちができる程度の脚力が必要です。加えて、杖を把持して身体を支えることができる腕の力も必要となります。

 

 (2)多点杖

 

 多点杖は、T字杖でバランスが保てない人に適しています。この場合、不安定さを補うために、良い方の腕の力と良い方の足の支持力が必要となります。多点杖は平坦な床では杖自体が直立して立つので、安定して体重をかけられるという利点があります。しかし、凸凹した道路や傾斜のある場所では、杖先全体が水平に接地できず、不安定な状態となります。

 

 (3)ロフストランドクラッチ

 

 ロフストランドクラッチは手のグリップとカフ(前腕を通す輪っか)で身体を支えることができる杖です。手と前腕の2カ所で支えることができるので、T字杖を使用するよりも安定した歩行が得られます。

 

 (4) 松葉杖

 

 松葉杖は、ケガや病気などで足に体重を掛けられない場合に使用するのが主な目的です。両手で松葉杖を使うと、体重のほとんどを支えることができるので、患部の完全免荷が可能となります。松葉杖を使用するにはバランス能力や腕の力が必要になるので、高齢者や筋力が衰えている人には不向きです。

 

 松葉杖は両脇にはさんで使いますが。わき(腋窩)で体重を支えることは禁忌です。腋窩で体重を支えると神経や血管を圧迫し、上肢のまひや感覚障害(しびれなど)を生じることがあるので十分注意しましょう。

杖のフィッティング

 杖の長さは、足の小指先端から、前・外側15センチのところに杖をついて肘関節が20~30度の角度になる長さ(おおよそ大腿骨大転子の位置)となるように決めるのが一般的ですが、骨折や円背(猫背)、まひ、変形性関節症など患者の身体状況に合わせて決めます。握リやすく、支えやすいように持ち手の形状などにも工夫が必要です。

 

 また、すべての杖に言えることですが、杖先に付いているゴム(杖先ゴム)の点検は重要です。古くなったゴムや、摩耗したゴムが着いている杖は滑りやすく転倒につながるので、早めの交換が必要です。

 

 紹介した以外にも杖にはたくさんの種類があります。患者の身体の状態や使う環境などに配慮し、安全で使いやすい杖を患者と一緒に考え、選定していくようにしましょう。

 

筆者=上條博之 小金井リハビリテーション病院

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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