環境で変わる認知症の症状〈高齢者のリハビリ〉

2023年0414 福祉新聞編集部

 皆さんは認知症の患者の生活環境について考えたことはありますか?

 

 認知症の症状として自分がどこにいるのか、何をしているのかを理解していないことがあり、不安を感じてしまう患者が多く見られます。そのため、今回は環境調整する際のポイントを改めてお伝えします。

 

 では、なぜ環境調整が必要なのかを考えていきます。認知症の患者はストレスや環境の変化によって、行動症状を引き起こすことがあります。行動症状とは徘徊や多動、暴言や暴力、不潔行為、介護拒否などが特徴的です。

 

 これらの症状は環境の変化に伴うストレス(リロケーションダメージ)から引き起こされます。そのため、どれほど介護を充実させても環境が整っていなければ周囲の状況を理解できず、混乱してしまいます。つまり十分なケアができません。そのために適切な環境づくりを行うことが重要になります。

 

 認知症の環境づくりの参考として、PEAP(専門的環境支援指標)という認知症の患者に必要な環境支援の指標があります。この指標は環境を八つの次元に分けて構成されています。八つの次元を以下に示します。

 

 (1)見当識への支援(サインや絵などの目印を用いる)(2)日常生活動作など自立能力を高める支援(3)五感を使用した環境の調整(4)患者が不安や孤立感を感じた時に容易にスタッフを探すことができる環境設定(5)患者ができる限り慣れ親しんだ活動の参加(6)患者の居場所を確保する支援(7)プライバシーの確保(8)他者とのふれあいの場の提供――という環境支援の目標となる項目です。

 

 例えば、失禁に対するケアを考えてみます。失禁は患者にとって大きく尊厳を傷つけられることもあります。このようなことを未然に防ぐために、寝室のベッドからトイレに行けるようになるべく近い位置、簡単な道筋に部屋を配置することも工夫の一つです。また、トイレの入り口に目印をして分かりやすく配慮することで失禁と徘徊の防止につながることもあります。

 

 当院でも部屋の目印として患者が自ら作ったフラワーペーパーを使用して自室の場所を分かりやすくしています。自らフラワーペーパーを作成することはリハビリの一環としての側面もあり、患者同士での社会交流の場を提供することができます。

 

 気を付けないといけないのは、大きな環境変化が起きた時の患者の精神面の影響について配慮していかなければならないことです。いきなり生活環境を一変してしまうと不安感が高まり精神的に落ち着かないことが予想されます。そうならないために、なるべく小さなことから少しずつ環境を変えて様子を見ることが大切です。

 

 家族の写真、好きな絵や風景、愛用してきた小物など、本人の気持ちが落ち着けるような物を置くなども一考かと思います。

 

 認知症ケアの中で環境づくりとは、身体的介護と同様に大切なケアの要素であるという意識を持ち、適切な環境づくりに努めなければなりません。多職種のスタッフと密に連携を取り、患者にとって落ち着ける場を提供してくことがケアの根本だと思います。

 

筆者=柳澤賢人 明生リハビリテーション病院

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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