体が動けば脳も動く!ダブルタスクの効用〈高齢者のリハビリ〉

2023年0407 福祉新聞編集部

 皆さんはダブルタスク(デュアルタスク)トレーニングをご存じでしょうか。認知症の予防や症状の進行を遅らせるには、早い段階から対策することが大切です。その取り組みの一つとして、ダブルタスクトレーニングが有効と言われています。

 

 〝ダブルタスク〟とは二重課題、つまり二つ(以上)の動作を同時に行うことです。日常生活でいえば、歩きながら会話をする、食事をしながらテレビを見る、掃除をしながら鼻歌を歌う――などが当てはまります。特別な物品の準備は必要なく場所を選ばないため、気軽に行えることが利点です。リハビリとしてのプログラムの具体例をいくつか挙げていきます。

 

 (1)歩きながら認知課題を行う(しりとり、クイズなどの脳トレ)

 

 (2)足踏み運動をしながら連想ゲームをする

 

 (3)話しながら、書き物をする

 

 (4)制限時間を設け、時間を気にしながら計算問題を解く。

 

 こういった〝ながら運動〟がダブルタスクトレーニングになります。普段何気なく行っていることにも思えますが、認知機能が低下することでこのような動作が難しくなってしまうことが多いようです。

 

 回復期リハビリテーション病院の課題の一つに、認知機能の低下が挙げられます。数カ月にわたる長期入院となることで、刺激の少ない単調な生活になってしまうためと言われています。これを防ぐため、リハビリスタッフ、看護師、ケアワーカーがチームで課題に取り組んでいます。

 

 当院では週1回集団活動を行っており、内容としては〝歌いながら手と足を使ってリズムをとる〟といったダブルタスクトレーニングを提供しています。「難しくてできないなぁ」「手と足が一緒に動いちゃう」などいろいろな発言が聞かれますが、難易度や説明の仕方を工夫することで患者の意欲の向上や、真剣に取り組む様子がみられています。

 

 ほかにも実際にリハビリをする中でこんなエピソードもあったので紹介します。

 

 「私は昔、百人一首をしていたのよ。百首全部言えるんだから」。認知機能の低下から自発性が低く、どう過ごせばいいのかも分からずデイルームでじっと座っていることが多い患者でしたが、もともとは明るく話し好きな性格でした。つえを使った歩行練習をしながらセラピストが上の句を言い、下の句を答えていただく。そんなやり取りを続けるうちにリハビリ以外の時間はホールでほかの患者さんと百人一首を予習されるようになりました。これは自発性、意欲の向上につながった一例だったと思います。

 

 本人の趣味や興味のあるものを課題に取り入れることで、患者のやる気や受け入れが変わってくると思います。その人がどういった生活をしてきたのか、どんな仕事や趣味を経験されてきたのか、興味のあることは何か。まずは私たちが患者、利用者個人のパーソナルな部分に興味を持って寄り添うことで、いいケアができるのではないでしょうか。また、それが信頼関係の構築にもつながると思います。

 

 認知症の予防や進行の遅延のためのトレーニングと聞くと一見難しそうですが、気軽にできることもたくさんあります。集団でできるようなオーソドックスなメニューから、その方に合わせたオリジナリティーあふれるメニューまで、方法は無限です。楽しんで取り組んでいただけるようなメニューをぜひ考えてみてください。

 

筆者=中川雄斗 明生リハビリテーション病院

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

福祉新聞の購読はこちら