「失語症」への理解と対応〈高齢者のリハビリ〉
2023年03月24日 福祉新聞編集部脳卒中や事故などの脳損傷により後天的に起こる言葉の障害に「失語症」があります。失語症は聞いて理解する▽読んで理解する▽言葉を話す▽言葉を書く▽計算する――のすべてが難しくなります。
失語症と構音障害
二つの障害はともに「言葉がうまく話せない」という共通点はありますが、症状は異なります。失語症の場合は理解、表出ともに難しくなり、話すことに関しては言葉が出ない、言いたい言葉と違う言葉が出てくるなどがあります。構音障害は口腔機能(顔面、舌、軟口蓋)の麻痺により呂律が回らなくなり、言葉の聞き取りにくさがみられます。
構音障害の人には筆談などで意思の伝達は可能ですが、失語症の人は頭の中で言葉を作ることが難しくなるため使用できません。
四つのタイプ
(1)全失語=聞く、話す、読む、書くのすべてが重度に障害されます(2)運動性失語=理解は20~40%程度となり、文章の理解が難しくなります。表出は言葉が出てこない、出るまでに時間がかかる、助詞が抜けてしまう症状がみられます(3)感覚性失語=理解は重度に障害されます。表出は話す量が多いが内容は空虚となることや、日本語にない単語を話します(4)失名詞失語=理解は80%以上が可能です。表出は伝えたい言葉が出てこず、指示代名詞が多くなることや違う言葉になることがみられます。
それぞれタイプの特徴はありますが、重症度などにより症状が異なります。
失語症の人への対応
話す時はプロソディー(※)を崩さないように簡易な言葉でゆっくりと話す、聞く時は焦らずゆっくり待つことが大切です。(※言語特有の会話の速度やリズム、抑揚や強勢などをいう)
伝える方法
(1)言葉を理解できる場合は端的に伝えます。例えば「今日は10時に公園で待ち合わせです」と伝えたい時は、話す際に「今日は/10時に/公園で/待ち合わせ/です」と文節で区切ります。文字で提示する場合は「待ち合わせ 日付=〇月〇日 時間=10時 場所=公園」と短い言葉で書きます。失語症の人は平仮名よりも漢字が得意な人が多いため漢字を使用してください。
(2)言葉の理解が難しい場合は絵、写真、ジェスチャーを用いて伝えます。
聞き出す方法
(1)言葉が出る場合は言葉が出るまでに時間がかかることもあるので、待つことが大事になります。また、言いたい言葉が出ないために違う言葉で言い換えることがあるため推察することも必要です。
(2)言葉が出ない場合は、「はい」「いいえ」で答えられる質問をします。言葉の理解も難しい場合は文字、絵、写真を指差してもらいます。
失語症の人は自ら話かけることに消極的になる人が多い印象があります。初めはうまくコミュニケーションをとることが難しいと感じるとこともあると思いますが、コミュニケーション場面を作ることが「人と話したい」という意欲を引き出す一歩になるため、積極的に会話を楽しんでもらえればと思います。
周囲の人たちの失語症への理解と支援は非常に重要です。失語症の人が携帯する「支援お願いカード」を提示します(図)。
筆者=小笠原彩華 蒲田リハビリテーション病院 係長代理
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長