代償手段を知って高次脳機能障害と生きていく〈高齢者のリハビリ〉
2023年03月17日 福祉新聞編集部前回は、高次脳機能障害の特徴と代表的な症状の日常生活への影響について紹介しました。高次脳機能障害は患者さんだけではなく、周囲の人の適切な対応も重要となります。今回は対応方法と代償手段について紹介します。
注意障害
注意障害では、注意を向ける情報量の調整と注意を持続させる時間の調整が必要です。環境としては、(1)静かで整理整頓された場所(2)注意事項は最低限の記載にとどめて確認しやすい場所に配置(3)作業内容は単純で繰り返しの多い内容が望ましいです。代償手段は、(1)注意を向かせること(2)注意を持続させること(3)注意を切り替えることを目的とし、張り紙やテープなどを用いた目印の設置やアラームの活用、作業時間を短く設定するなどの対応が有効です。
記憶障害
記憶障害では、一度に覚える情報量の調整と覚えるときの入力方法に対する配慮、行動や環境のパターン化が必要です。(1)スケジュールや行動内容の固定、統一(2)使う物の配置の固定と使ったら戻す習慣づけ(どこに何があるかリストを作る)(3)必要な情報は目に付きやすい場所に配置し、思い出しやすい環境を調整することが望ましい。代償手段は、(1)スケジュールを管理すること(2)忘れたときに確認することを目的として、メモやスケジュール帳(使い慣れたもの)、ボイスレコーダーなどの活用が有効です。
半側空間無視
半側空間無視では、患者さん自身が確認作業を行いやすい環境の調整と、確認が困難な場合はあらかじめリスクとなる因子を除去しておくことが必要です。(1)見落としのないことを確認する習慣づけ(2)見落としやすい人には不必要なものは配置しないことが望ましいです。代償手段は、目印の設置や指差し確認と対象の全体を確認する習慣化(食事の際には食器の配置の確認)などの対応が有効です。
遂行機能障害
遂行機能障害では、指示は具体的に行い、時間に余裕をもった行動計画を立てることが必要です。(1)静かで整理整頓された場所にする(2)行動前に具体的な行動や結果を提示(3)注意事項は確認しやすい場所に配置することが望ましい。代償手段は作業手順票(事前に手順は確認する)やアラームの活用などが有効です。
社会的行動障害
社会的行動障害では、事前に行動特性や問題行動となる因子を除去するように配慮し、問題発生時も客観的に振り返ることが可能なように時間や空間の調整が必要です。(1)ストレスや問題行動のきっかけとなる因子を事前に除去(2)興奮時には休息を促し、落ち着いたタイミングで行動を振り返る(3)急な環境の変化を避ける(4)自己にて気づきを促すように対応することが望ましいです。代償手段は、動作の開始を促すことが必要な際には、代償手段は作業手順票(事前に手順は確認する)やアラームの活用などが有効です。
今回は高次脳機能障害の対応方法と代償手段を紹介しました。適切な対応を取ることで、患者さん自身も日常の生活がより過ごしやすいものへと変わっていきますので、今後の関わりの参考になればと思います。
筆者=松本宗一郎 蒲田リハビリテーション病院 課長代理
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長